最新記事

ドキュメンタリー映画

言論バトル『主戦場』を生んだミキ・デザキ監督の問題意識

Changing the Comfort Woman Narrative

2019年4月25日(木)17時00分
朴順梨(ライター)

(右から)映画に出演するトニー・マラーノ(評論家)と藤木俊一マネジャー、ケント・ギルバート(タレント)、杉田水脈衆議院議員、藤岡信勝元東大教授 © NO MAN PRODUCTIONS LLC

<左右両派が登場する慰安婦映画『主戦場』。なぜ日系アメリカ人監督はこんな作品を撮れたのか>

「慰安婦は性奴隷ではなく売春婦でした」。タレントであるケント・ギルバートのこんなせりふがある一方で、彼ら「歴史修正主義者」の言葉を吉見義明中央大学名誉教授がばっさりと否定する......。ドキュメンタリー映画『主戦場』は、慰安婦問題をテーマに繰り広げられる、さながら言論バトルのような作品だ。

監督のミキ・デザキはフロリダ州生まれの日系アメリカ人。医学大学院予科生として学位取得後、2007年から5年間、山梨と沖縄の学校で英語指導助手をしていた。その時の経験を基に「日本では人種差別がありますか?」という映像を制作し、2013年にYouTubeにアップしたところ、「でたらめ」「反日工作員」といった批判ばかりが寄せられた。いわゆるネトウヨ(ネット右翼)との初めての遭遇だ。

magmovie190425shusenjo-2.jpg

デザキ(上)がYouTubeに公開した映像が全ての始まりに YOUTUBE

そんな折、元朝日新聞記者の植村隆が激しいバッシングにさらされていることを知り、その端緒となった慰安婦問題に興味を持ったという。

2015年に上智大学大学院進学のため再来日したデザキは、慰安婦問題についてのリサーチを始め、映画制作を進めていった。ニュース映像や資料を発掘するその傍ら、活動家や学者など約30人を取材。「被害者は20万人いたのか」「強制連行だったのか」「性奴隷か否か」といった論点に沿って、彼らの主張を映像に収めていった。

この作品の特徴は日本とアメリカ、韓国を横断して関係者を追っていることだ。韓国では『帝国の慰安婦』著者の朴裕河(パク・ユハ)世宗大学教授に、アメリカでは慰安婦にされた少女の像を建立した団体メンバーのフィリス・キムにインタビューしている。また、「女たちの戦争と平和資料館」(東京)の渡辺美奈や韓国挺身隊問題対策協議会の尹美香(ユン・ミヒャン)(当時)など慰安婦支援に関わる者だけでなく、ジャーナリストの櫻井よしこや杉田水脈衆議院議員など、慰安婦の強制性に否定的な者も多く登場する。

どちらも通常は自身に好意的なメディアには登場するものの、対立する相手と同じテーブルに着くことはほぼない。またどちらかの意見を支持するジャーナリストに、反対陣営が取材に応じることも少ない。

なのになぜ彼は、双方を取材することができたのか。

差別的な発言が多く登場

「撮影当時は大学院生だったので、相手の言葉をねじ曲げるようなことをすれば、自分の学者としての信頼に関わった」と、デザキは言う。「だから取材したい人には、『双方の意見を映し出す映画にしたい』とアプローチしていた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中