最新記事

人権問題

タイで行方不明のベトナム人権活動家、ハノイの刑務所に収監確認 両国治安当局が連携し拉致?

2019年3月22日(金)19時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

第三国での拉致に警戒感

ナット氏は反政府活動の罪で2013年5月にベトナム当局に逮捕され、その後2014〜15年にかけて2年間服役した経歴がある。こうした過去の経験から今回も「逮捕の恐れ」を感じてタイに出国、難民申請を行ったとみられているが、共産党一党支配が続くベトナムでの人権侵害の状況や政治犯の実情を国際社会に発信されることを危惧した治安当局によって「口封じ」のために拉致された可能性が高い。

ベトナムでは現在少なくとも200人以上の政治犯が国家の安全を脅かしたなどの容疑、罪で身柄拘束、逮捕、服役していると人権団体などは明らかにしている。

RFAは今回のナット氏の拉致事件を米国務省や複数の米議会議員に伝えており、米政府によるなんらかのアクションを期待している。それと同時にタイ政府に対しても拉致事件の真相解明に向けた協力と事件への関与などの説明を求めている。

ナット氏が第三国であるタイで、それも直接的にはタイ警察によって身柄を拘束されベトナム治安当局者に引き渡された今回の事件は、治安当局の手を逃れてタイで活動を続けている他のベトナム人活動家に「いつ自分にも治安当局の手が及ぶかもしれない」という不安を与えている。

国際的人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のアジア担当のバンコク支部副代表であるフィル・ロバートソン氏は「ベトナム当局者によるナット氏拉致にタイ官憲が関与していたとしたら、タイの責任問題になる。人権や民主化に関連したベトナム人のイベントを中止するようタイ政府に対し要求するなど、ベトナム政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)で最悪の人権侵害政府だ」とRFAに語った。

タイ政府は24日に迫った総選挙で手一杯の状況であり、タイ政府やASEANが人権問題に正面から向き合うにはなお時間がかかりそうな情勢である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中