最新記事

日本社会

夏の熱中症より多い、屋内でも起こる冬の「凍死」にご用心

2019年3月6日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

もう一つ、一般的な想像を超える統計的事実がある。凍死が多い場所は屋外ではない。2016年の『人口動態統計』の内部保管統計に、死因小分類と死亡場所のクロス表がある。<表1>は、熱中症と凍死の死亡場所の内訳表だ。

maita190306-chart02.jpg

2016年の凍死者1093人のうち、最も多いのは自宅での死者だ。その数414人で、全体の4割近くを占めている。遭難したとか路上で寝込んだとか、屋外での凍死が大多数を占めているのではない。

屋根があり、雨露をしのげる屋内でも凍死は起こり得る。いやむしろ、屋内の方が数は多い。先月の中旬、強烈な寒波により北海道は危険な寒さになったが(マイナス22度)、このような寒さで布団をかぶらないで寝たら危ない。気温11度で命を落としたケースも報告されている。寒さの感覚が鈍くなる高齢者は要注意だ(老人性低体温症)。

日本の「家の造り」にもよるだろう。古典を紐解いても、徒然草で「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」と言われている。湿度が高い日本では、古くから住居は夏向けに作られてきた。海外はそうではなく、ヨーロッパではレンガ造りが主流で断熱性に優れている。

それと暖房代だ。夏場の冷房代もかかるが、額としては暖房代の方が高い。冷房が使えず熱中症で死亡した高齢者の事件が報じられるが、暖房をつけられず極寒の室内で凍死した事件も起きているはずだ。生存権を保障する範疇として、空調代は生活保護で支給されなければならない。昨年の夏、生活保護世帯にエアコン代(5万円上限)が支給されることが決まった。

「住」は生活の基盤だ。誰もがまっとうな家に住みたいと願っている。夏場の熱中症が問題視されているが、冬場の凍死にももっと注意が払われるべきだろう。

<資料:厚労省『人口動態統計』

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中