最新記事

韓国社会

韓国の受験戦争、大ヒットドラマ「SKYキャッスル」でさらに過熱か

2019年2月7日(木)11時55分

韓国の悪評高い学歴競争社会を痛烈に風刺したケーブルテレビドラマが大ヒットしたことで、その警告を無視して、成功追求に熱を上げる視聴者も一部出てきている。2016年8月、ソウルの高麗大で勉強する学生(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)

韓国の悪評高い学歴競争社会を痛烈に風刺したケーブルテレビドラマが大ヒットしたことで、その警告を無視して、成功追求に熱を上げる視聴者も一部出てきている。

韓国ドラマ「SKYキャッスル(原題)」は、国内の一流大学に子どもを合格させて、高給が約束された仕事に就かせようと、全力を挙げる野心的な家族たちを描いた物語だ。その過程で、成りすましや自殺、殺人事件も発生する。

SKYキャッスルとは、韓国郊外にある架空の高級住宅コミュニティの名前だが、同時に韓国トップのソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)の3校の頭文字でもある。

調査会社ニールセン・コリアによると、このドラマは、韓国のケーブルテレビとしては、歴代最高の視聴率をたたき出しており、隣国の中国でもファンを増やしている。

同ドラマは2月1日に最終回を迎えたが、韓国では製作者側が批判の意図を込めて描いた過激な教育手法をまねする人も出てきている。

例えば、勉強に集中するための広さ1平方メートルに満たない木製のクローゼット「スタディーキューブ」は価格が1台250万ウォン(約24万円)するが、このドラマに登場して以降、その売り上げが8倍に跳ね上がった。

「SKYキャッスルにスタディーキューブが出ていたのを見て、勉強に適した環境を作ろうと、自分の意思で買った」。ソウルにある一流大学の医学部進学を目指す高校生イ・ドギョンさん(16)は、そう語る。

勉強内容のみならず、睡眠パターンから友人関係まで事細かに指導する大学入試コーディネーターがドラマに登場すると、大学入試を専門とするコーチの需要が急増した。

Uway教育改革研究所のディレクター、イ・マンキ氏は、大学受験コンサルタント志望者向けのコースを50%増やす計画だという。

こうした現象は、ドラマが意図したものとは真逆の動きだ、とSKYキャッスルの主任プロデューサー、キム・ジヨン氏は言う。

「スダティーキューブに注文が殺到したり、入試コーディネーター探しに熱心な人が出ているというニュースは、脚本家が最も避けたかったものだ」とキム氏は言う。「脚本家は、自分の子どもの大学受験を経験して、行き過ぎた教育熱に警鐘を鳴らしたかったのだ」

トイレで読書

スタディーキューブが韓国に登場した7年前も、国内で議論を呼んだが、SKYキャッスルに登場したことで、プレッシャーの大きい韓国の学歴社会を問い直す声が改めて上がっている。

前出の高校生イさんは、キューブが届いたら、防音が施された環境に自らを隔離して、勉強に没頭することを楽しみにしていると話す。しかし、親がそれを子どもに強制する場合は、「米びつに閉じ込めるのと同じだ」と、18世紀に父の英祖によって米びつに閉じ込められて殺された思悼世子の悪名高い事件を引き合いに出して語った。

スタディーキューブの製造元EMOKのチョイ・キジュ最高経営責任者(CEO)は、隔離することで、学生は邪魔が入らずに集中できると話す。「単純な話だ。トイレにいるときの方が、集中して本を読めるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中