最新記事

日ロ首脳会談

日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない

2019年1月24日(木)12時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

こうして世界第二位の経済大国だった日本は凋落の一途を辿り、今や見る影もない。

安倍首相は習近平国家主席に「一帯一路に協力するから、どうか私を国賓として中国に招いて欲しい」と懇願し、そして「どうか私のメンツを立てて、習近平国家主席殿下には訪日していただきたい」とひれ伏して頼んでいる。

これがどれほど日本の国益を損ねるかは『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるか』で詳述した。

最悪のタイミングでのロシアとの北方領土問題交渉

日本経済が力を失い、ロシア経済もソ連崩壊以降それなりの回復を遂げ、ロシア国民の「領土」に対するナショナリズムは現在のロシア誕生以降、最高潮に達している。アメリカから経済制裁を受けて困窮しているとはいえ、プーチンと習近平は蜜月を演じており、ソ連時代のような中ソ対立の要素は消滅している。そして何よりも2010年以降は中国が世界第2位の経済大国となってしまい、日本の発言力など見る影もない。

プーチンは、それでも日本の経済支援が欲しいだけで、領土問題など、ロシアの国民感情を考えればゼロ歩も進まないだろう。

現にプーチンはあたかも領土問題を解決しそうな素振りだけをして安倍首相の要望に応えて首脳会談だけは重ねながら、1月23日(昨日)の日ロ共同記者発表では、領土に関しては一言も触れなかった。

プーチンの背後には習近平がいる。

昨年11月12日、プーチンは中国の企業代表団を北方4島に招聘して、大きな商談を進めている。安倍首相に対する当てつけで、「安倍に領土問題を諦めさせて、経済協力に誘い込むためだ」と中国のメディアは高笑い。

なぜなら、中国は「一帯一路」経済構想を北極圏にまで延ばそうとしており、そのために北海道の土地を買いまくっている。日本の北方領土に対して、日本が権利を主張するようなことがあってはならないと、陰でプーチンを操ってもいる。

中国の経済支援をしっかり取り付けておきたいプーチンは、安倍首相とは経済協力はしても、決して領土問題解決の方向には動かないであろうことは明確だ。

クリミア問題で欧米諸国による経済制裁を受けているからプーチンは日本に秋波を送り、習近平もまた米中対立で半導体のアメリカからの輸入が規制されているので日本に秋波を送るというファクターは否めない。しかし、そのようなことばかりに目を向けて「日本は前進した!」という存在しない希望的観測を日本国民に広げていくのは適切だとは思えない。

これまでの日本外交の敗北を直視し、それをどう生かすのか。至難の業だ。


endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、盗んだ1.47億ドル相当の暗号資産を洗浄=

ビジネス

米家計債務、第1四半期は17.6兆ドルに増加 延滞

ビジネス

米国株式市場=上昇、ナスダック最高値 CPIに注目

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、PPIはインフレ高止まりを
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中