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南青山の児童相談所反対運動──海外の「意識高い系」は真逆の動き

2018年12月25日(火)16時40分
内村コースケ

住宅建設の制約が少なく、電車・自転車通勤が常識の東京の都心部はアメリカのYIMBYには理想的に映るかもしれない=青山通り・南青山3丁目交差点にて(撮影:内村コースケ)

<東京・港区南青山の児童相談所建設反対派住民は、典型的なNIMBY(ニンビー)だ。北米などでは、「必要性は認めるが、自分の家の近くには建ててほしくない」と、公共施設や高層住宅の建設に反対する住民やその反対運動を、"Not In My Back Yard"(我が家の裏庭には御免)の頭文字を取ってNIMBYと呼ぶ。一方、今、ニューヨークやカリフォルニアの「意識高い系」の住民の間では、そのアンチテーゼであるYIMBY(インビー=Yes In My Back Yard)運動が盛り上がっている。集合住宅などの建設を促進して住宅不足や家賃高騰を解消するのが主な目的だが、推進派の口からは歓迎する施設の一つとして「児童福祉施設」もはっきりと挙げられている>

あらゆる人々を歓迎する町であるために

YIMBY運動は、2006年にカナダのトロントで住民運動として、スウェーデンの都市部で政治運動として始まったのが初期の事例で、近年、特に住宅不足や家賃の高騰が著しい米ニューヨークやカリフォルニア州で盛り上がっている。カリフォリニア州の政治・社会問題を扱うニュースサイト『Capitol Weekly』は、折しも南青山の児相建設に反対する住民の声が日本のマスメディアで広く報じられ始めた頃、YIMBY推進を訴える社説を掲載している。

『これからはNIMBYではなくYIMBYだ』と題した12/20付の社説は、YIMBYは「時代遅れのNIMBYへのアンチテーゼ」だと表現する。NIMBYは「自分たちの目に見えない所で行われる開発には賛成する」点で、闇雲な反対運動よりもむしろ偽善的で悪質だと捉える市民が近年増えているようだ。「YIMBYは反対に、自分の地域に手頃な住環境を欲するという肯定的な宣言」だという。より日本語的な表現をすれば、「地域エゴ」の反対がYIMBYだと言えるかもしれない。

その波は太平洋を越えてオーストラリアにも達している。昨年設立された第3の都市ブリスベンを中心に活動する「YIMBYクイーンズランド」の共同設立者、ナタリー・レイメントさんは、運動を貫く精神を次のように語っている。

「(拒否する対象が)私たちの町に新しく越してくる人たちや、古くからの住民が持つ特権を持たない人、あるいは移民だったらどうでしょう?それと同じ話です。あらゆる人々を歓迎する町であるためには、住む家にも幅広い選択肢を用意しなければなりません。住宅だけではなく、地元商店や児童福祉施設、幅広い職場も必要です」(ブリスベン・タイムズ

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