最新記事

フィリピン

「イスラム国」に占拠されたミンダナオ島 戒厳令延長を決めたドゥテルテの狙いは?

2018年12月13日(木)19時10分
大塚智彦(PanAsiaNews)

戒厳令下での人権侵害が問題に


戦争と呼べるほどの激しい闘いが繰り広げられたミンダナオ島マラウィ ABS-CBN News YouTube

戒厳令延長の動議を上院のユアン・ミゲル・ズビリ与党議員会長と共同提出した下院のロランド・アンダナ・ジュニア与党議員会長は「当局者の説明を聴いて、ミンダナオには反政府勢力により引き続き脅威が存在すると信じる。そのため戒厳令再延長は必要がある」と述べ、再延長の必要性を訴えた。

また、地元紙の報道によると、ミンダナオ島サンボアガ市のセルソ・レブレガト市議は「2013年にサンボアガ市の一部が(イスラム教武装組織の)モロ民族解放戦線(MNLF)に占拠される事件が起きた。もしこの時戒厳令があればあのような事態は起きなかった」と戒厳令延長への支持を表明すると同時に「戒厳令でMNLFなどの組織の武装解除も進めてほしい」と期待を示している。

しかしその一方で、このようになし崩し的に戒厳令が再延長される現状に対して、野党や人権団体は「戒厳令下で人権侵害がさらに深刻になる恐れがある」と警告を発している。

事実、ミンダナオ島では野党と関係のあるグループの元議員ら18人が少数民族支援の活動をしていたところ、治安部隊に突然身柄を拘束されるなどの事件も報告されている。

戒厳令下では軍や警察は「逮捕令状なしで身柄を拘束できる」ことから、ミンダナオ島では治安上必要という理由だけで不当な逮捕、尋問などの人権侵害が続いているといわれている。

今回戒厳令が再延長されることになったミンダナオ島はフィリピン南部でMNLFなどの反政府武装組織の活動が活発な地域とされ、ドゥテルテ大統領は、マラウィ占拠事件に乗じてこうした他の武装組織の壊滅も視野に入れているとみられている。

なによりも、ドゥテルテ大統領自身が1998年から途中間があるものの6期も市長を務めたダバオがミンダナオ島にはある。このこともミンダナオの治安を優先し、国軍・警察に超法規的権限を付与することになる戒厳令にドゥテルテ大統領が積極的な理由のひとつといわれている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中