最新記事

ブレグジット

イギリスで空前の倉庫争奪戦 EU離脱の混乱備え企業が在庫積み増し

2018年12月10日(月)10時48分

供給不足

離脱推進派は以前から、外交・通商政策に戦後最大の変化を引き起こすEU離脱が実施されれば、当初は経済に打撃を与えるが、長期的には新たな通商協定が恩恵をもたらす、と主張してきた。

だが英国企業にとっては、直前まで離脱後の通商協定の行方がはっきりしないため、準備が困難になっている。

6カ月前の時点では、顧客は準備するには予想されるシナリオが多すぎると感じていた、とウィンカントンのコルマンCEOは語る。今も不透明さは残るが、彼らは実際に行動を起こさなければならなくなった。

とはいえ、ロンドンや英国中部では、デベロッパーが近年米アマゾン・ドット・コムなどのネット通販大手や、テスコなどのスーパー向け物流施設建設に注力してきたこともあり、十分な保管スペースを見つけることが難しくなっている。

ネット通販の浸透があまりにも急だったため、それまで英国中部の物流センターに依存していた他の企業は、より迅速な配達を確実にするため、全土に物流拠点を持たなければならなくなった、と法律事務所アドルショー・ゴッダードで不動産を担当するキャサリン・ファーヘッド氏は説明する。

デベロッパーは近年、多層式駐車場を物流センターに改築したり、地下に巨大物流施設を建設する許可を取り付けたほか、住宅に隣接した地域での倉庫建設も増やしている。これは、建築許可を得るとともに、物流施設で働く人も確保しやすくするためだ。

ネット通販向け施設に集中してきたことで、倉庫物流業界は、現在必要とされる多数のテナント向けの投機的倉庫を十分に建設してこなかった。英不動産業者サヴィルズによると、2009年に約870万平方メートルあった空きスペースは、2018年には260万平方メートルしかなかった。

商業不動産会社ジョーンズラングラサール(JLL)は、英国最大の貿易取扱額を誇るヒースロー空港の近くに、国内最大級の空き倉庫「カーゴ777」を所有。白と灰色と黒の外観で、最近改装された同施設の床面積は約7500平方メートルで、物流業者に貸し出される予定だという。

「空港の通関手続きにより長い時間がかかると見込み、より広いスペースを確保する人が多い」と、JLL幹部のメリンダ・クロス氏は言う。「これもブレグジットのためだ。皆それに向けて計画を立てている。準備を進めている。皆、前に進まなければならない」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Kate Holton

[レイトンバザード(英国) 5日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中