最新記事

米中対立は「新冷戦」ではない

2018年11月22日(木)08時57分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

驚くべきは、トランプ大統領が今年8月の防衛権限法で向こう7年間も取引禁止をした中国の最大手電子通信関係の国有企業ZTEのカウンターパートであるアメリカ最大手の半導体メーカーであるクァルコムのジェイコブスCEOも顧問委員会の委員の一人だということである。ZTEは生産するハイテク製品のキー・パーツ(半導体)のほとんどをクァルコムから輸入しており、クァルコムとの取引を禁止されたらお終いなのだが、そのクァルコムのCEOが習近平のお膝元にいて、熱烈な親中派として習近平に協力しているのであれば、防衛権限法など、ないに等しいことになってしまう。

金融界も半導体メーカーも、習近平とともにグローバル経済を強烈に望んでおり、常に米大財閥によって構成される顧問委員会と接触し会議を開いている習近平は、ウォール街と利害を共有しているということができる。

彼等はともに、「反グローバリズム」を進めるトランプの政策には反対だ。だから「打倒トランプ」を掲げて次期大統領選候補として出馬することになっているマイケル・ブルームバーグ氏(米大手の通信社「ブルームバーグ」の創設者)は共和党から民主党に鞍替えして、キッシンジャー元国務長官を味方に付け、習近平と接触させたのである。

しかしビジネスマンのトランプが、習近平にウォール街を牛耳られたのではたまらない。トランプの葛藤は尋常ではないだろうと推測する。だから「習近平とは、もう友達でないかもしれない」と言いながら、11月末のG20で習近平との会談を申し出ている。

どこに「新冷戦」構造があるのか?

イデオロギー的対立要素がないだけでなく、グローバル経済においてウォール街と手を組んでいる習近平政権が、いったい、どのようにしてアメリカと「新冷戦」構造を形成し得るのか、「新冷戦」論者たちには是非とも示してほしいものだ。

米中が対立しているのは、中国が進めている「中国製造2025」という国策であって、中国は2025年までに半導体の70%を自給自足し、2022年までには宇宙を実効支配しようとしている点においてである。これにより中国は、やがてアメリカを凌駕する基礎を構築しようとしているのである。。

トランプは中国のこの野望を見抜き、何としてもそれを阻止しようとしている。だからハイテク製品において貿易戦争という形で闘いを挑み、中国がアメリカを凌駕しないように全力を投入している。なぜZTEに向こう「7年間」の取引を禁止したのか。「2018+7=2025」だからだ。来たるべき「2025年」までは中国を抑え込む。「中国のやりたいようにさせてはならない」というのがトランプの目標だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中