最新記事

移民

「国境なき医師団」の移民救助船「アクエリアス」を伊当局が差し押さえ──病原菌を海にバラまいた容疑

Italy Orders Ship Seizure Over Contamination Fears

2018年11月21日(水)16時03分
シャンダル・ダ・シルバ

アクエリアス号に救助され、イタリアのシチリー島で下船する移民たち。彼らが病原菌扱いされるのは今に始まったことではない 2017年9月 Tony Gentile- REUTERS

<移民の衣服や移民の治療に使った医療器具などの汚染物を海に不法投棄した、と当局は言うが、「医師団」はとんでもない偏見と反論>

イタリア当局は、NPO「国境なき医師団(MSF)」が運営する移民救助船「アクエリアス号」の差し押さえを命じ、MSFへの捜査も開始した。同船がゴミを不法投棄した容疑だという。当局側の主張によると、不法投棄されたゴミの中には衣服も含まれており、これらの衣服はHIVや結核菌、髄膜炎をもたらす菌で汚染されている恐れがあるというのだ。

シチリア島カターニアの検察当局はアクエリアス号の差し押さえを命じ、同時にこの船を運営しているMSFを訴追した。AP通信は訴追の理由について、50回近い難民救助活動の間に同船が蓄積した合計24トンに上る医療廃棄物や汚染された廃棄物を不法投棄したことだと報じている。

MSFによれば、アクエリアス号は現在フランスのマルセイユに停泊しており、イタリアの主権は及ばない。イタリアの司法当局は、アクエリアス号が同国の領海内に入ったところで、差し押さえを行うと述べている。

イタリア当局はMSFに46万ユーロ(約5900万円)の罰金の支払いを命じている。当局側はこの金額の根拠について、廃棄物の不法投棄によりMSFが支払いを免れた処理費用に相当する額だとしている。

「汚染された衣服」が危ない?

さらにイタリアにあるMSFの銀行口座を凍結し、24名の関係者について捜査を開始した。対象者には、アクエリアス号の船長エフゲニー・タラニン、および、MSFベルギーでイタリア関連ミッションの副責任者を務めるミケーレ・トライニティが含まれている。

AP通信の報道によると、検察当局は声明で、新たにヨーロッパに到着した移民の中には、疥癬(かいせん)やHIV、結核、髄膜炎の患者がいると主張。こうした病気を持つ患者が着ていた「汚染された衣服」が、感染を広げる恐れがあるとしているという。

こうした検察側の主張に、HIV/エイズに関する複数の啓蒙団体は激しく反発している。イギリスのHIV支援団体、ナショナル・エイズ・トラストのデボラ・ゴールド会長は、英ガーディアン紙に対し「衣服にはHIV伝染のリスクはそもそもなく、そのような事例も1つも報告されていない」と指摘した。

「このような主張は、エイズに対する誤った情報がまかり通っていた1980年代でさえ、荒唐無稽として退けられていただろう。2018年の今ならなおさらだ」とゴールドは続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

内外の諸課題に全力で取り組むことに専念=衆院解散問

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中