最新記事

AIと倫理

自動運転車が事故を起こしたら......誰を救う?東と西で大きな違いが

2018年11月9日(金)17時15分
松丸さとみ

自動運転車で考えた「トロッコ問題」 Devrimb-iStock

<自動運転車が事故を起こし、誰を救うか......自動運転車が下す判断に人間がどう感じるかを調べた分析結果が発表され、国や地域によって大きく感じ方が変わることがわかった>

誰かが犠牲になる、正解のない「トロッコ問題」

「トロッコ問題」または「トロリー問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか? トロッコが暴走し、その先には5人が動けない状態でいる。あなたの手元にはレバーがあり、それを引けばトロッコの行き先を別の線路へと切り替えることができる。しかしそちらには別の1人がいる。あなたはレバーを引くか? という、正解のない倫理的な問題だ。

この答えについて、自動運転中の自動車という文脈で研究が行われている。自動運転車が事故を起こし、誰を救うか......という判断を一瞬のうちに自動運転車が下さなければならない場面を想定している。こうした場面に直面した場合、自動運転車がどのような判断を下すアルゴリズムにすれば、人は満足するだろうか。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は2016年、「モラル・マシーン」というオンライン調査を開始した。自動運転車などの人工知能が下す判断に人間がどう感じるかを調べるもので、13パターンのシナリオが用意されている。ブレーキが効かなくなった自動運転車が突っ込む先にいるのは、「高齢の男女」か「ホームレスと犯罪者1人ずつ」、または「コンクリート壁」(運転手の女性が亡くなることになる)か「成人男女、赤ちゃん、犬」などで、どちらを選んでも他方のグループが亡くなるという内容だ。調査の参加者は、この選択を迫られる。

230万人が参加の大調査、傾向は大きく分けて3つ

米ウェブメディアのクオーツによると、調査には233カ国から230万人が参加。結果は、東洋と西洋とで、誰を救うべきかという倫理観が大きく異なることがわかった。うち130カ国から得た100の回答を分析した結果が、このほど英学術誌ネイチャーに掲載された。

結果を分析したところ、その思考は大きく、西洋(北米や欧州など主にキリスト教諸国)、東洋(日本や中国など儒教の考えが浸透している極東の国々や、中東諸国やインドネシアなどのイスラム教諸国)、南部(中南米、フランス、フランスの影響が濃い国)の3つに分けることができたという。

例えば、「若者」か「高齢者」のどちらを救うかについては、西洋の国々は子どもを救いたいという傾向が強かった。一方で上下関係を重んじる儒教の考えが広く浸透している東洋では、高齢者を救うとした人が多かった。

また、「より多くの人を救う」という点については、個人主義が発達した国でこの傾向が強く見られたと研究者たちは説明しており、例えば米国は14位。これに対して日本は117位、中国は113位だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パレスチナ自治政府のアッバス議長、アラブ諸国に支援

ワールド

中国、地方政府に「妥当な」価格での住宅購入を認める

ビジネス

お知らせー記事を削除しました

ワールド

EU、中国製ブリキ鋼板の反ダンピング調査開始
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中