最新記事

マレーシア

マハティール首相「エネルギー政策で原発を選択せず」 過去の事故理由に中国の「新植民地主義」かわす?

2018年9月19日(水)20時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)


「電力供給産業会議2018」の開会式で「反原発」を宣言するマハティール首相 The Star Online / YouTube

過去の放射性廃棄物の悪夢

マレーシアでは1980年代から1990年初めにかけてクアラルンプールの北、ペラ州イポー近郊のブキメラで日本企業が経営するレアアース精錬工場が放射性廃棄物の問題を起こしている。

レアアースを抽出するために錫を処理する過程で排出される放射性トリウムの廃棄方法がずさんで工場労働者や周辺住民に健康被害が出るとともに、廃棄物の処理施設として広大な土地を半永久的に利用することに関しても国民の間から反対運動が起きたのだ。

基調講演の中でマハティール首相は「過去に悪い経験をマレーシアはしている。カラーテレビなどの生産用の錫の処理で発生した残留物が環境を破壊し、住民に健康被害を与えた。マレーシアはこうしたことを絶対に繰り返してはならない」と述べて過去の反省の上に放射性廃棄物の問題が解決されない限り「原発」は選択肢外との思いを表明したのだった。

こうしたマハティール首相の「反原発」宣言を受けてマレーシア政府はエネルギー政策、とりわけ電力需要に対してその電源を将来に渡ってどう持続的、安定的に確保していくか、政策の練り直しを迫られることになる。同時にマレーシアの原発開発・導入に深い関心を寄せていた中国などの今後の対応も注目されている。

中国は2015年11月に中国国務院傘下の原子力企業「中国広核集団(CGN)」がマレーシアの火力発電会社を買収することで合意。マレーシア政府(当時はナジブ政権)の原発計画を視野に入れた買収とされていたため、今回のマハティール首相の方針転換を受けたCGNの去就も関心を集めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中