最新記事

アメリカ政治

銃規制のためには政治から立て直す、100万人集めた米高校生の驚くべき成熟度

2018年3月26日(月)20時00分
マーク・ジョセフ・スターン

銃乱射事件の悲しみをきっかけに立ち上がったマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の生存者たち Jonathan Ernst-REUTERS

<ワシントンで大規模集会を開いた銃乱射の生き残りたちは、多大な犠牲を出してもなお銃をばら撒き、登下校にさえ命の危険を感じる地域を放置してきた政治そのものを変えるという。彼らはアメリカの、そして世界の希望なのか?>

3月24日、銃規制強化を求める集会に参加しようと、80万人が首都ワシントンに集まった。全米では参加者は100万人を超えたとみられる。彼らがそこで見たものは、アメリカ政治の「転換点」とも呼べるものだった。

手作りのプラカードで彩られた「命のための行進(March for Our Lives)」は、銃規制強化を求める集会であると同時に、新たな世代の政治活動の幕開けを告げていた。

集会で演説した若者たち──ほとんどが18歳以下だった----に、皮肉っぽさや疲れやあきらめはまったく見られなかった。そうかといって、銃暴力の問題だけに特化して、アメリカ社会の病理や民主主義の衰退という大きな問題を看過しているわけでもない。

彼ら「銃乱射世代」にはすでに、銃乱射の再発防止に向けたプランがある。過去の世代が残したあらゆる傷や穴を埋めるための計画に動きだしている。

「命のための行進」を主催したのは、2月に起きた銃乱射事件で17人の犠牲者を出した米東南部フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の生徒たちだ。

最初の課題は、どうやったら幅広くいろいろな人を巻き込むことができるのかということだった。

地元パークランドは経済的に恵まれた地域で、かつては州内で最も安全とされた地域でもあった。だが銃乱射事件の多くが起きているのは、同じアメリカでもまるで異なる土地柄の場所だ。銃暴力によって心に傷を負った子供が多く暮らすのは、デトロイトやボルチモアのような、所得が低くマイノリティーが多く住む地域だ。

確かに最も重大な問題は銃だ。容易に銃を入手できれば銃による死者が増える。だが銃暴力には明らかに別の要素も関わっている。構造的な貧困、制度に内包された人種差別、麻薬規制の穴、足りない学校予算、警察の暴力......。

教会の外で射殺された兄

生徒たちは選択を迫られた。学校での銃乱射という問題だけを取り上げるのか、それとも、銃乱射の背景にあるさまざまな政策の失敗にまで踏み込むのか?

3月24日、生徒たちは答えを出した。パークランドのような「安全な」地域に大きな衝撃を与えうる学校での銃暴力に対象を限定することはしないと。

シカゴ在住の少年、トレボン・ボスリーが演壇に立ったことで、それはおのずと明らかになった。ボスリーの兄は教会から出てきたところを射殺された。

「僕はガソリンスタンドや映画館、バス停や教会に行く時や、登下校のときですら撃たれるのではとおびえる若者たちのためにここに来ました」と、ボスリーは言い、聴衆とともにこう繰り返した。「銃撃は日常の問題だ」

【関連記事】
銃規制運動を率いる高校生は課外授業が育てた
今回は違う! 銃社会アメリカを拒絶する賢い高校生たち
銃乱射を生き残った高校生たちに全米から誹謗中傷なぜ?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

再送-バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大す

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中