最新記事

中東

絶望のシリア和平は新たな戦いへと向かう

2018年2月5日(月)11時55分
ジョナサン・スパイヤー(ジャーナリスト)

syriamap01.jpg

パトロンの手先と化して

しかしアサドの後見人であるロシアは、トルコ軍の侵攻作戦を違う目で見ているようだ。

トルコ軍の作戦開始の前に、ロシアはアフリン周辺からロシア軍を退避させている。それにアフリンでクルド人の拠点を空爆しているトルコ軍機は、ロシアの了解なしに国境を越えられないはずだ。好ましからざる存在をシリア上空から確実に排除できるロシアのS400地対空ミサイルが、常に目を光らせているからだ。

アサド政権は、実質的な意思決定者であるロシアからこの状況を甘受するよう求められている。だからトルコ軍機を撃墜するというメクダドの脅しも、口先だけに終わっている。

同様に、最近の展開はこの戦争がもはやシリアの「内戦」ではなくなったことを示している。アフリンにおける対クルド作戦に協力している反政府武装勢力は、トルコ政府のために働く傭兵のような存在にすぎない。

北部にはファイラク・アルシャム、ヌーレディン・アルジンキ、レバント戦線などの反体制派勢力がいるが、政権打倒の希望が消えた16年の夏以降は、基本的にトルコ軍の下請けに甘んじてきた。トルコやその国境近くに拠点を置く勢力は、今やトルコの言いなり。南部にいるスンニ派系の反体制派勢力も、ヨルダンやアメリカ、イスラエルといったパトロンの言いなりだ。

ISISとの戦いは、確かに終わりが近い。その組織は完全に破壊されておらず、一部に支配地域が残っているが、領土の大部分は失った。今後は「カリフ国」の樹立を宣言した14年6月以前の状態に、つまり拠点を持たないが残忍極まりないテロ組織に戻るしかあるまい。

こうした状況を踏まえて、シリアは今後、どのような方向に向かうと考えられるか。

まず今のシリアには、3つの主要な連合体が存在する。アサド政権+ロシア+イランの連合は国土の半分以上と人口の大半を支配している。しかし石油資源が豊富な東部デリゾール一体と主要な農業地帯はクルド系シリア民主軍+アメリカ連合が握っている。そしてトルコ+スンニ派武装集団(過激な「聖戦派」を含む)の連合は主として北西部を支配している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中