最新記事

中東和平

パレスチナを裏切ったトランプの迷外交

2017年12月14日(木)15時30分
デービッド・ケナー

エルサレム旧市街での抗議行動 Ammar Awad-REUTERS

<エルサレムの首都認定を発表直前まで伝えなかった「ディールの名手」の真意は>

パレスチナの外交関係者はつい最近まで、ドナルド・トランプ米大統領に慎重ながら楽観的な見方を抱いていた。トランプ本人の言う「究極の取引」、つまり交渉によるイスラエル・パレスチナ紛争の解決に向かって進んでいると考えていた。

パレスチナ自治政府の有力筋によると、この楽観論の背後にあったのはトランプ政権との一連のやりとりだった。その典型例が、これまで報道されていなかった11月30日の会議だ(米政府とパレスチナの複数の関係者から事実確認を取った)。

アメリカ側の出席者は、トランプの娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問、ジェーソン・グリーンブラット外交交渉特別代表、ディナ・パウエル大統領副補佐官(国家安全保障担当)。パレスチナ自治政府からは、情報機関と外交分野の高官3人が出席した。

だがアメリカ側は、トランプがエルサレムをイスラエルの首都と認定することを先方に伝えなかった。3日前、政権内部の会議の席で大統領自身が強調していたにもかかわらず、だ。

この会議の時点で、トランプ政権がエルサレムを「首都認定」するという報道は既に始まっていた。パレスチナ側は、トランプは米大使館のエルサレム移転を先送りする文書に署名するのかと尋ねた(実際には12月6日に署名)。だがアメリカ側は、エルサレムの件について追加の情報を出さなかった。

期待は失望に変わった

代わりにこの会議の焦点になったのは、未発表の中東和平案だった。だが、この案はもはや死んだも同然だ。トランプが12月6日にエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表した直後から、抗議行動がアラブ世界全体に広がり、数百人が負傷。パレスチナ自治区のガザ地区では2人が死亡した。

中東和平交渉のパレスチナ側の交渉責任者サイブ・エレカトは、「(イスラエルとパレスチナの)2国家共存という解決策はもう終わりだ」と宣言した。

ある自治政府当局者はこう語る。「これはエルサレムの地位ではなく、ワシントンの地位に関わる問題だ。米政府は真剣な仲介者のイメージをひどく傷つけ、世界規模の合意と国際法から自分自身を孤立させた」

8日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、全15カ国中アメリカを除く14カ国がエルサレムの首都認定を批判または懸念を表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ビジネス

独CPI、4月改定は前年比+2.4% 速報と変わら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中