最新記事

中東政策

エルサレム首都認定は米政権も説明できないトランプ究極の利己的パフォーマンス

2017年12月7日(木)17時30分
イラン・ゴールデンバーグ

最後に、この決定は和平を模索してきた自らのチームを裏切るものだという点でも利己的だ。トランプの娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナーは何カ月も前から中東を歴訪し、関係者と協議を重ねてイスラエルとパレスチナの和平交渉再開に向けて準備を進めてきた。その努力を水の泡にする今回の決定に、クシュナーが賛同したとは思えない。

トランプは、歴代大統領などによる過去の交渉はすべて失敗に終わったから、エルサレムの首都認定で新しいアプローチを始めると述べた。しかし娘婿がせっかく交渉再開に奔走したのだから、少なくともその成り行きを見守ってから決断しても遅くなかったはずだ。

仮に暴力が起こらなくても、こうなった以上アメリカにはもはや和平交渉を仲介する資格はない──それが多くのパレスチナ人の心情だ。アッバスが交渉を進めたくても、このムードでは、トランプ政権がお膳立てしたテーブルに着くわけにはいくまい。

政権の機能不全が露呈

問題はトランプが驚くほど利己的な決定をしたことだけではない。これまでもそうだったように、迅速で効果的な外交判断の欠如がトランプ政権の足を引っ張ってきた。トランプは5日からアッバスや何人かのアラブ首脳に電話で決定を伝え始めた。だがホワイトハウスは声明を出さず、記者団にも十分な説明を行わなかった。ニュースが発表されたときに、まず伝えられたのはアラブ諸国とパレスチナからの猛反発の声だった。彼らはすぐさま記者会見を行ったからだ。肝心要のときにホワイトハウスが沈黙していたため、批判的なコメントがニュースの基調になった。政権が後手後手に回らなければ、火の手を抑えられたはずだ。

トランプ政権は、中東諸国の反発を抑えるのにも失敗した。トランプは声明で、イスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」を支持する考えを初めて表明した。トランプ政権としては、パレスチナ側に大きな譲歩をしたつもりだった。だがエルサレムをイスラエルの首都にするという決断への怒りを鎮めるにはとうてい及ばない。2国家共存はすでにアメリカの中東和平の礎であり、歴代米大統領もその方針を堅持してきた。トランプが就任初日にすべきだったことを今更やっても、何の慰めにもならない。

エルサレムはイスラエルの首都だと宣言はしても、大使館の移転時期は先延ばしすることでも、国際社会の批判をかわそうとした。だがそれも無駄だろう。イスラム諸国にとって問題の核心は、アメリカが大使館をどこに置くかではなく、エルサレムの最終的な帰属がどこになるかだからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ

ビジネス

再び円買い介入観測、2日早朝に推計3兆円超 今週計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中