最新記事

核兵器

米ロの新たな軍拡競争 オバマ政権の核兵器近代化が引き金に

2017年12月1日(金)18時27分

核兵器強化は効果的な抑止力となり、戦争リスクを低下させると主張する人たちもいる。

核兵器を管理する米エネルギー省の高官を1月まで務めていたチェリー・マリー氏は、新STARTによる核兵器保有量の削減によって、米国政府は保有兵器の性能を向上せざるを得ないと述べた。

米国は冷戦時代、相当数のミサイルを保有していたため、たとえ不良品があったとしても軍はそれをただ廃棄することができた。しかし新STARTが1550発に核弾頭保有数を制限していることで、その1発1発が重要になったとマリー氏は言う。

「数が減らされたことで、われわれは確実にそれらを機能させなくてはならなくなった。また、機能すると敵に信じさせることも大事だ」

トランプ大統領の近代化プログラムへの見解についての質問に対し、米国家安全保障会議の報道官は、「現代的かつ強固で、順応力と回復力があり、いつでも使用可能で、21世紀の脅威を抑止し、同盟国を安心させる目的にかなう」核戦力を生み出すことが大統領の目標だと答えている。

最も高額な爆弾

保有数の減少は、技術的向上を覆い隠してもいる。

兵器の数ではなく殺傷力を競う軍拡競争が繰り広げられていると、米ミドルベリー国際大学院モントレー校、ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのウィリアム・ポッター所長は指摘。「技術進歩が、軍縮を上回っている状況だ」と語る。

古い兵器がより危険な新兵器に生まれ変わった例として、米国の主力水素爆弾がある。米空軍は1960年代半ばから、重爆撃機に核爆弾「B61」を装備している。最近まで、B61は航空機から投下され、重力に従って標的にただ落下する旧式の爆弾だった。

空軍は現在、それを制御可能なスマート爆弾に進化させた。新型には調節可能なテールフィンが付いており、爆撃機乗員が爆弾を標的に向かわせる誘導システムを備えている。最新型はすでに、爆発の威力を調節できる特殊な「調節能力」を備えている。

広島に投下された原子力爆弾と比べ、ほんのわずかの威力しかない0.3キロトンから、同爆弾の23倍で都市を壊滅する破壊力を有する340キロトンまで、爆発の威力を調整することが可能だ。同様の機能は、新型巡航ミサイルでも計画されている。

新型のB61は史上最も高額な爆弾だ。1発当たり、2080万ドル(約23億円)で、同じ重さの24金よりも約3割高い。計480発製造する計画で、推定価格は100億ドルとみられている。

米国議会はまた、新兵器「核搭載長距離巡航ミサイル」の当初予算18億ドルを承認した。総費用170億ドルを見込む同ミサイルは、爆撃機から発射される。ステルス爆撃機が標的の真上まで飛んで投下するB61と異なり、この巡航ミサイルは、敵空軍の防衛圏のはるか外を飛ぶ爆撃機から敵地の奥深くに向けて発射することが可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中