最新記事

フィリピン

マラウィ戦闘終結も戒厳令継続 イスラム過激派残党200人が国内潜伏か

2017年10月30日(月)14時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

というのもインドネシア当局はマラウィでの戦闘終結を受けて「過激派のメンバーの一部はすでにインドネシアに流入している可能性もある」としてフィリピン南部から海路で入国が可能なカリマンタン島やスラウェシ島北部の主要な港湾、漁村などでの警戒を強化している。

さらに、これまで多くのイスラム過激組織のテロリストが潜伏、テロ計画を練るなどしたアジトが多く存在するジャワ島への海路、空路の移動も重点的に警戒する態勢をとっている。

約200人のうちの何十人かはインドネシア、マレーシアなどにすでに脱出しているとみられているが、フィリピン当局にしてみれば「200人中が逃亡中」という数字は「現実の脅威」として必要なのだ。戒厳令をいまだに継続し、さらなる陸軍の部隊新設というドゥテルテ大統領の政策には「イスラム過激派は全滅、残りも大半を逮捕」では都合が悪いのだ。

市民犠牲者の数字の真偽は?

国軍によると5月23日以来5カ月の戦闘で国軍兵士・警察官は165人が死亡、市民の犠牲者は47人だったという。

事件発生当初、過激派メンバーが市民を見せしめに殺害している、キリスト教会関係者を多数殺害した、多くの市民を人間の盾として人質にとっている、逃げてきた市民が約100人の遺体を見たなど情報が錯綜したが、市民の犠牲者は思ったほど多くなかったと「数字を見る限り」いわれている。

国軍は「人質の安全を最優先した作戦の結果」であるとこの民間人犠牲者が少ない理由を説明するが、フィリピン人記者によると「現段階ではこの数字はあくまで軍の発表であり、きちんとした検証に基づいている訳ではない」という。

当初から報道があった国軍の空爆による市民の犠牲者がこの市民の死者に含まれていない可能性が高く「軍・警察の数字は多めに、民間人の数字は少なめに発表されている可能性」を指摘する声もある。

いずれにしろ「国内逃亡・潜伏中」のイスラム過激派に対する国軍の掃討作戦は今後もさらに強化される形で継続される。そしてこれまで通りに「テロとの戦い」を錦の御旗として掲げながらドゥテルテ大統領は、戒厳令、国軍部隊増強などをテコにしてさらなる政権基盤強化を虎視眈々と狙っていることは間違いない。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=3日続伸、FRB年内利下げ観測高まる

ビジネス

再送NY外為市場=ドル指数続落、利下げ期待で 円は

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中