最新記事

BOOKS

絶対的に不平等な「税金逃れ」と「税金取り立て」の実態

2017年9月25日(月)18時25分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<日本の税制の現実を浮き彫りにした『ルポ 税金地獄』。富裕層や大企業には税金を逃れるための抜け道がいくつもあるのに、サラリーマンや非正規労働者の負担はどんどん大きくなっている>

ルポ 税金地獄』(朝日新聞経済部著、文春新書)は、日本の税制の現実を浮き彫りにしたノンフィクション。


家族の状況などにもよるが、年収七百万円のサラリーマンだと実際の手取りは七割程度で、一千五百万円だと六割程度しか残らない。所得税、住民税、年金、医療、介護などと、項目は分かれているが、われわれはこんなに負担させられているのかと、あらためて驚くはずだ。
 しかも、これは天引きされている税金や保険料だけの話だ。買い物をするたびに八%の消費税を取られ、中にはビールなどの酒、たばこ、自動車やガソリンなど、商品の値段に含まれていて二重に払う税金もある。持ち家があれば固定資産税も払う。こんなに負担をしているのに、国と地方の借金は一千兆円を超えた。(3ページ「プロローグ 老人地獄の次は税金地獄がやってくる」より)

問題は、高齢化社会が追い打ちをかけていることだ。それは現在についても言えることではあるが、2025年以降は団塊世代が75歳を超え、「後期高齢者」になる。高齢化社会を支えるためには財源が必要だから、そのとき日本人の税負担はさらに重くなっているわけだ。

そして、その背後にあるのは絶対的な不平等感である。現実問題として、富裕層や大企業には税金を逃れるための抜け道がいくつもある。ところが、本来は相応に保護されるべきサラリーマンや非正規労働者のための逃げ道は少なく、負担がどんどん大きくなっている。

例えば2016年に、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税金逃れや資産隠しを暴露した「パナマ文書」が話題になった。印象的なのが、このことについて語る50代の男性コンサルタントの言葉だ。彼はタックスヘイブンでの会社設立や資産運用に30年近く携わっているというが、そこには「不平等感」の実態がはっきりと表れている。


 パナマ文書が公開された影響について、何度も自信ありげに繰り返した。
「富裕層の税逃れを止めることは決してできません」
 彼に節税意識が芽生えたのは二十代、まだサラリーマンだったころだ。結婚してすぐ、妻を社長に自らの資産管理会社を登記した。法人をつくれば経費が多く認められるなど、節税に有利だ。この会社名義で国内外の不動産に投資し、十億円規模の資産を築いた。
 相続対策もぬかりない。不動産取引に使う金は個人名義で銀行から借り、資産管理会社に貸し付ける。その貸し付け債権を毎年約百万円分ずつ、妻や二人の子に生前贈与する。年に百十万円までなら贈与税がかからない。こうしておけば、会社がお金を返す時に、その受け取り先は妻や子になる。
 ただ、継続的に同じ額を贈与すると、まとめて贈与するものを分割しているだけだと税務署に判断されかねない。そこで贈与する日付を毎年、ランダムに変更する。今では子どもが結婚して、贈与先は子の妻や孫にまで増えている。自分が亡くなるころには、ほとんど課税されることなく財産を家族に移せるはずだという。(20~21ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

過去の債券買い入れ、利上げ効果弱めた可能性=シュナ

ワールド

ポーランド、ウクライナ派兵を排除すべきでない=外相

ビジネス

旭化成、スウェーデンの製薬企業カリディタス買収 約

ビジネス

午後3時のドルは156円後半、月末取引で上値重い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 7

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 8

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 9

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 10

    トランプ&米共和党、「捕まえて殺す」流儀への謎の執…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中