最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

地上に名前の残らない人間たちの尊厳

2017年9月5日(火)15時45分
いとうせいこう

こちらもウガンダの色鮮やかなMSF施設。そしてロバートの背中(スマホ撮影)

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く
前回の記事:「南スーダンの「WAR」──歩いて国境を越えた女性は小さな声で語った

4/23

昼食を草原の間にある小さな、しかしよく栄えているレストランでとった。レンガの色が日に映える建物で、居住区の中にあるのが不思議だった。もともとウガンダにあったものかもしれない。

俺はそこで鳥肉と米を炒めたものと、パッションフルーツジュースを頼んだ。前者は少し水分の多いチャーハンのようなものだった。おいしいが量がすさまじかった。『国境なき医師団(MSF)』の広報・谷口さんとその日のドライバー、ロバート・カンシーミが何を食べたかは覚えていない。

再び車に乗って移動すると、途中でMSF専用の広い駐車場に寄った。そのあたりユンベ地方だけでドライバーが28人(!)いるのだそうだった。確かに鉄扉の内側のスペースにたくさんの車が止まっていた。すべての車輌にMSFのマークが貼りつけられていた。大規模なミッションであることがよくわかった。

「薬局」に立ち寄り、前夜宿泊の手はずをつけてくれた女性に御礼を言ってから、海外派遣スタッフのための宿舎に戻った。みな自分の部屋で休んでいるらしく、最も手前にある屋根の下は無人だった。

谷口さんと俺はソファに座り、ともかく誰かが出て来てくれるのを待った。のんびりとした風が吹き、敷地の中のマンゴーの樹を揺らした。日が高く上がっているが、樹木の下には濃い影があった。

1時間も経ったろうか。そのうち一人、二人とスタッフが出て来た。まず物資供給を担当するロジスティシャンのアナ・ハスヴェクが、大きな段ボール箱を抱えて歩いてきた。ごそごそと中を出すと、飲料水を入れておくフィルター付きのプラスチックボトルのようなものだった。箱の外側を見ながら、彼女は一人で淡々とその装置のセッティングを続けた。しかし、どうもうまくいかない。

俺たちもそばに行って、彼女の手伝いをした。しかし今ひとつよくわからない。すると、後ろからほとんど黙ったまま、顎ヒゲを生やしたフランス人男性、ファビアン・リューが現れ、箱の外側をよく見てからこちらに挨拶をし、パーツを組み立て始めた。

彼らには常に何かやることがあるのだった。誰かにそれがあれば、誰かが手伝う。ほとんど自助的に見えるその行為は、回り回って結局他人のためだった。小さな仕事の連続が、そうやって積み上がってプロジェクトになり、人間同士が信頼でつながっていくのを、俺はその飲料水ボトルの静かな組み立てで実感したように思った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国4月輸出は13.8%増、7カ月連続プラス 半導

ビジネス

午前の日経平均は反落、米株安を嫌気 個別物色は活発

ビジネス

中国新疆から撤退を、米労働省高官が企業に呼びかけ 

ビジネス

米8紙、オープンAIとマイクロソフト提訴 著作権侵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中