最新記事

アフリカ

ルワンダ大虐殺の記憶が政権交代を阻む

2017年8月7日(月)11時10分
トニー・オンユーロ

カガメは憲法を改正し、最長で34年まで大統領の座にいられるようにした Chip Somodevilla/GETTY IMAGES

<大統領選で3選目を目指すカガメに人権弾圧疑惑。だが国を発展に導いた功績を評価する声は大きい>

6月、ルワンダの首都キガリ。フランシス・ヌドゥウィマナは自分が経営する食料品店の表に座り、8月4日の大統領選に求めるのは政権交代だと語った。

「(現職のポール・)カガメにはうんざり」と言うヌドゥウィマナは、多数派民族フツの出身。「でも大統領を批判したら、国を分断するのかと政府ににらまれ、投獄されるか殺される」

少数派民族ツチの出身で00年から大統領の座にあるカガメが再選を目指すなか、多くの国民、特にフツは不安を募らせる。彼らに言わせれば、現政権は反対意見を封じている。独裁制への不安もある。カガメは3選を禁じた憲法を15年に国民投票で改正し、最長34年まで権力の座にとどまれるようにした。

だが、変化を求める人ばかりではない。「カガメは身を削って国民に尽くしてきた」と、ツチのシャルル・ベカニボナはたたえる。「永遠に国を治めてほしい。彼こそ平和の人だ」

フツの過激派がわずか100日で、80万人以上のツチと穏健派のフツを殺した94年の大虐殺から23年。この国では今も民族が政治を分断する。多くの国民、特にツチは、ゲリラ組織ルワンダ愛国戦線を率いて大虐殺を終息させたカガメを評価している。

社会を変えた功績だけでカガメは続投に値するという声も、民族の垣根を越えて聞こえてくる。カガメは義務教育を無償化し、国民の95%が高速インターネットを使えるようにした。乳幼児と妊産婦の死亡率を半減させ、若者の雇用と貿易を促進し、汚職と闘った。

汚職監視団体トランスペアレンシー・インターナショナルの発表によると、今のルワンダはサハラ以南のアフリカで3番目にクリーンな国だ。

平均年収は700ドルと低く、国家予算の30%を外国の援助に頼るなど課題は残るが、ルワンダは前進している。今年の経済成長率の予測も7%と高い。

【参考記事】紛争鉱物の規制を撤廃? アメリカの強欲がアフリカで新たな虐殺を生む

反対派は投票できない

だがヌドゥウィマナのようなルワンダ人にとっては自分たちが受けてきた抑圧の前に、カガメの功績も吹き飛んでしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中