最新記事

ヨーロッパ

従業員のスカーフ禁止容認判決で、イスラムと欧州の対立深まる

2017年3月15日(水)17時40分
ルビー・メレン

独ケルンのイスラム家族教育センターに集まった女性たち(今年1月) Wolfgang Rattay-REUTERS

<欧州司法裁判所は、スカーフを外すことを拒否したために解雇された女性の裁判で、社内規定があれば差別にはあたらないと判断した。イスラムと欧州の対立の象徴でもあるスカーフの禁止で、亀裂はさらに深まるのか>

EUの欧州司法裁判所は3月14日、企業が従業員に対し、スカーフなどの宗教的象徴を職場で着用するのを禁じることを一部認める判断を示した。スカーフ着用をめぐって今回出された2件の判決は、欧州のイスラム教徒と欧州社会のあいだの緊張をさらに高める可能性がある。

欧州司法裁判所が示した判断は、フランスとベルギーの女性が訴えた2件の事例に関するものだ。いずれの事例でも、訴えを起こした女性は、スカーフを外すのを拒んだことを理由に職場を解雇されていた。ベルギー女性に関する判決では、「政治的、思想的、宗教的な意味を持つものを目に見える形で着用すること」を禁じる社内規定は、差別にはあたらないとされた。その一方で、フランス女性に関する判決では、社内規定を持たない雇用主が、顧客の要望を理由に、スカーフなどを外すよう従業員に求めることはできないとの判断も示された。

【参考記事】寛容の国オランダもブルカ禁止へ王手

欧州では、イスラム教を問題視する勢力と宗教的寛容を支持する勢力とのあいだの対立が激しくなっており、なかでもスカーフの問題は、以前から両者の象徴的な争いの場になっている。14日の判決の背景には、欧州で高まる反イスラム的な移民排斥運動がある。そうした運動を煽っているのが、中東のイスラム諸国から欧州へと大挙して押し寄せる移民や難民への不安だ。

トルコとの関係も緊張

さらに最近では、トルコとの関係も緊張している。世俗主義を掲げていたトルコでは、以前は公の場でのスカーフ着用が禁じられていたが、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領率いるイスラム系政権のもと、現在では軍でのスカーフ着用も解禁されている。

トルコでは、大統領の権限を強化する憲法改正案の賛否を問う国民投票が4月に行われる。トルコ系住民が多く暮らすドイツとオランダでは、この国民投票に関係するトルコ系住民の政治集会が禁止された。トルコ大統領の報道官を務めるイブラヒム・カリンは、今回の欧州司法裁判所の判決について、欧州における「反イスラムと外国人嫌悪の傾向」を強める方向に働くだろうとツイートしている。

フランスなどの欧州諸国では、昔から厳格な政教分離が支持されている。その一方で、人権活動家のあいだでは、公の場から宗教的象徴を追放する厳しい政策は、一種の差別にあたるとの声もあがっている。

【参考記事】フランス警官、イスラム女性にブルキニを「脱げ」

「今日の判決には失望している......信仰を理由に女性および男性を差別するさらなる余地を、雇用主に与えることになる」と、アムネスティ・インターナショナルの欧州ディレクターを務めるジョン・ダルフイセンは声明で述べた。

【参考記事】イスラム女性に襲われISISがブルカを禁止する皮肉

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦案、イスラエルにこれ以上譲歩せずとハマス 

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIの基盤モ

ワールド

米がイスラエルに供給した爆弾、ガザ市民殺害に使われ

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中