最新記事

イラク

警官の集団墓地、石打ち、化学兵器──ISIS最大拠点モスルの惨状

2016年12月1日(木)18時47分
ダイアナ・エルタハウィ

11月30日、モスルから逃げてきた避難民。車両はイラク軍のもの Alaa Al-Marjani-REUTERS

<イラク政府軍などの猛攻でISISが追いつめられるにつれて、「イスラム国」の恐怖の実態が明らかになってきた>

 イラク政府軍がテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の拠点であるイラク北部の都市モスルに対する奪還作戦を始めて数週間、残酷なISISの支配下で起きた恐るべき実態が明らかになってきた。

 集団墓地で300人に上る警察官の遺体が発見され、化学兵器の使用も伝わるなど、ISISに支配された住民が強いられてきた恐怖は想像を絶する。その上イラク軍の攻勢を受ける今は、その侵攻を妨げるために住民らを強制移動させて「人間の盾」として使っている。

【参考記事】ISIS「人間の盾」より恐ろしい?イラク軍によるモスル住民への報復

「ここ2年は悪夢のなかを生きている」と、モハメド(仮名)はモスルでの生活について語った。過去に一度だけ、イスラム教が禁止する性行為(ジナ)を行なった夫婦に対する公開の石打ち刑を強制的に見せられたことがある。

「今もあの時の光景が脳裏に焼き付いている。顔をベールで覆った女性の頭部に石がぶつかり、頭から血が噴き出ていた」

【参考記事】イスラム女性に襲われISISがブルカを禁止する皮肉

化学兵器と知らずに水で洗った

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルがイラク北部で3週間かけて実施した調査で、ISISが支配していた町や村から逃げ出してきた住民は、誰もが恐怖に満ちた経験をしていた。

 ある男性は、当時居住していたモスル東部にある通りで、ISIS戦闘員が軍事車両のハマーを標的に自爆攻撃を仕掛けてきたときの光景について語った。「爆発の衝撃で、家にあった冷蔵庫が部屋の端まで飛んだ。近所の家は崩壊し、家の中まで押しつぶされた。瓦礫の間に人の肉が見えた」

 モスル南部にある町ケイヤラでは、10月6日にISISが化学兵器を使用したとアムネスティは主張する。目撃者の証言によると、ニンニクや玉ねぎのような匂いで、黄色っぽく油のような液体が地元のカフェや民家に発射された。被害者は目の炎症や呼吸困難やかゆみに苦しみ、皮膚が赤くなり最後にはただれた。そうした症状について、アムネスティが調査を依頼した化学兵器に詳しい2人の専門家は、硫黄マスタードガスを浴びた後の症状と一致することを確認した。

【参考記事】米軍に解放されたISの人質が味わった地獄

 4歳の女の子は親戚の家の庭で化学兵器による攻撃を受けた。「化学兵器とは知らず、水で洗ってあげただけだった」と父親は言う。「すると翌日、皮膚がただれはじめた。最初は小さかった患部が次第に大きくなり、ひどく痛がった」

【参考記事】クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

 イラクで残忍な行為に及んでいるのはISISの戦闘員だけではない。モスル奪還作戦が始まって以来、身の毛もよだつISISの支配からやっとの思いで逃れた住民らを、理不尽な報復が待っていることも少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中