最新記事

日ロ外交

プーチンの思うつぼ? 北方領土「最終決着」の落とし穴

2016年10月21日(金)10時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

Thomas Peter-REUTERS

<日ロ首脳会談を前に出てきた「2段階」返還論。領土の安易な譲歩と焦りにほくそ笑むのは「おそロシア」?>(写真:国後島で洗濯物を干すロシア女性〔15年9月撮影〕)

 ロシアのプーチン大統領の12月来日を前に、北方領土問題の落としどころについて論議がにぎやかだ。やれ歯舞、色丹の2つだけでいい、やれ国後、択捉は共同開発ができれば十分等々、「捕らぬたぬき」そのものだ。

 日本を取り巻く大国間の力関係、そして日ロの国内情勢をよく見るならば、領土問題を今すぐ最終解決できないことは、誰でも分かる。だからと言って島を放り出したり、ロシアと敵対したりしてはいけない。大事なのは、領土問題を「時効」に持ち込ませないこと、そして対ロ関係で日本のためになるものは活用することを肝に銘じつつ、前向きに付き合っていくことだ。

「おそロシア」とか言って食わず嫌いの日本人が多いロシアは、日本のすぐ隣のヨーロッパだ。成田から飛行機で2時間強のウラジオストクは日に日に整備され、生活も落ち着いている。

【参考記事】プーチンをヨーロッパ人と思ったら大間違い

 日ロ両国にとって関係増進はプラスとなる。ロシアは人口わずか600万強の極東部の経済を強化し、東北部だけでも人口1億以上を抱える中国に席巻されるのを防ぐことができる。日本も対ロ関係を良くしておけば、ロシアが中国と束になってかかってくるのを防げる。

 日本はよく、「腹に一物持ったままでは本当の友人にはなれない」という人間関係の原則を国と国の関係にも適用する。ロシアと友好関係を結ぶためには「小さな島のことなど忘れろ」とまで言う人がいる。しかし、国と国の関係は人間関係とは違う。「腹に一物持ったまま手を握る」のは、古今東西当たり前のこと。中央アジアなどでは、友好国同士、今でも国境の画定交渉を延々と続けている。

 日本が北方領土返還要求を捨てずとも、ロシアは日本との友好関係を対中カードとして使えるし、中国より払いのいい日本に石油やガスを輸出したがっている。日本が国後、択捉を諦めたところで、ロシアはいつも日本の肩を持つわけでもない。

「対米自主路線」の矛盾

「日本は戦後、歯舞、色丹の返還だけでソ連と平和条約を結ぼうとした。だが日ソ友好を警戒したアメリカが日本に国後、択捉も要求させた。冷戦後の今、アメリカの圧力はもはやない」という議論がある。これは対米自主路線に見えてそうではない。自国領の返還を要求するのに、アメリカの意思を忖度するなど、対米依存の骨頂だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中