最新記事

北欧

英EU離脱をノルウェーはどう見たか「ノルウェーモデルはイギリスには耐えられない」

2016年7月5日(火)15時10分
鐙麻樹(ノルウェー在住ジャーナリスト&写真家)

 ノルウェーモデルは「植民地モデル」だとGKは例える。「植民地の歴史で知られるイギリスが、ブリュッセル下に入ることになる。皮肉な運命だ」

 ノルウェーとイギリスの今の大きな違いは、ノルウェーはもともとEUとは婚姻関係にはないのに対し、イギリスは離婚届を突き付けた側だということ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が述べたように、離脱しながら特権だけを享受し、抜け道から単一市場にアクセスできるほど現実は甘くない。

Brexitにニヤリ?「この騒動に、ノルウェーも便乗しちゃおう」

 EUが危惧するのは、イギリスを皮切りに、他国がBrexitに追随することだろう。これ以上のファミリー分裂は避けたいところだ。そこに、家の外にいるノルウェーの一部が、この機会を利用しようと動き始めた。イギリスとタッグを組み、「ノルウェーモデル=EEAの変革」だ。

EUお家騒動は、非加盟国ノルウェーにプラスか。EEA議論が再燃中

 ノルウェーモデルの見直しについて、最初に声を挙げ始めたのは複数の左寄り小政党。極左・赤党の党首は、「EEAについての国民投票を!」と、仰天発言をし始めた。 まさかの「#Noexit」?

 EEAはEUへの別口切符だったので、ノルウェーは完全に手放そうとは思っていないだろう。可能性として否定できないのが、現在のノルウェーモデルの進化とEUとの新たな関係を問う国民投票だ。Brexit騒動を機会に、EUとの新しい関係性に期待する声は取材先で多く聞こえてくる。

ノルウェーモデルも見直しを

 28日、左派社会党の党首は取材で「市場を支配するEUは民主的ではない」と語った。「Brexitはノルウェーにプラスの影響を及ぼすかもしません。イギリスが、現在のEEAを別の形で望むのであれば、ノルウェーとの協定ももっと自由になる可能性がある。ノルウェーが今よりも自分たちで決められるように」。この騒動をきっかけに、協定内容を修正する動きにつなげられるのではと語る。

 20日にEU賛成派とみられる層が多く集まったGKによる集会でも、「EUとの新しい協定を問う国民投票を、2019年あたりに実現できれば!」と希望で胸を膨らませていた。会場には首相の側近もいた。

孤立するイギリスに、ノルウェーは手を差し伸べるか

abumi4-2.jpg
国民投票当日のノルウェーの全国紙アフテンポステンの表紙「今日、イギリスは欧州を分裂させるかもしれない」 Photo:Asaki Abumi

 首相率いる保守党は様子を伺っているようだ。国民投票運動で大きな影響力をもつ「EU反対」団体は、ノルウェーモデルの見直しを後押ししている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中