最新記事

犯罪

銃乱射が起きても銃規制が進まない理由

痛ましい悲劇が繰り返されても銃規制が一向に進まない本当の原因とは

2012年12月17日(月)17時32分
アダム・ウィンクラー(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)

繰り返す悲劇 米コネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件の犠牲者の家族たち(12月14日) Adrees Latif-Reuters

 なぜアメリカでは、どんなに痛ましい銃乱射事件が起きても、それが単なる同情を超えて銃規制改革に結び付くことがないのか。

 13年近く前にはコロラド州で、コロンバイン高校銃乱射事件という悲劇が起きている。高校3年生のエリック・ハリスとディラン・クリーボールドは、教師1人と生徒12人を射殺(犯人2人も自殺)。アメリカの高校史上最悪の銃乱射事件となったが、それが銃規制法の改正につながることはなかった。

 アリゾナ州では昨年、同州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員のイベントで銃乱射事件が発生。ギフォーズは頭に銃弾を受けながらも一命を取り留めたが、連邦地裁判事やギフォーズの支持者計6人が死亡した。

 近年ではほかにも、カリフォルニア州シールビーチの美容院(死者8人)、テキサス州のフォートフッド陸軍基地(同13人)、ニューヨーク州ビンガムトンの移民支援センター(同13人)で銃乱射事件が起きた。だがそのどれとして銃規制の強化につながらなかった。

ブレイディ法以降は停滞

 昔はこうではなかった。世間を大きく騒がせる銃関連事件が起きると、規制強化を求める声が強まったものだ。アメリカ初の本格的銃規制である連邦銃器法(NFA)も、1929年の「血のバレンタインデー事件(ギャングのアル・カポネの一味が、敵対組織の6人と通行人1人を機関銃で虐殺)」がきっかけだった。

 93年にはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけにブレイディ法が生まれた。同法により銃販売店は、購入希望者の犯罪歴を警察に照会することが義務付けられた。

 だがブレイディ法以降は、大規模な銃犯罪が起きても規制強化が図られることはなくなった。なぜか。最大の原因は、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力が高まったことと、銃規制運動が下火になったことだろう。

 NRAは南北戦争後の1870年代から存在するが、その活動が先鋭化したのは1970年代半ばに強硬な銃規制反対派が幹部になってからのことだ。新生NRAが銃規制撤廃を活動目標に掲げる一方で、伝統的に銃規制に前向きだった民主党は94年に連邦下院で過半数割れを喫して以来、銃規制問題を避けるようになった(ビル・クリントン大統領ら民主党は、ブレイディ法案を採択したことが過半数割れの原因だと考えていた)。

 新たな銃規制法が実現する可能性が乏しくなると、銃規制運動自体が下火になった。現在、主だった銃規制推進団体は資金不足で存亡の危機に立たされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦交渉、イスラエルの条件修正が暗礁原因=ハマ

ビジネス

アングル:4月CPI、利下げに向け物価情勢好転待つ

ワールド

米、ウクライナ防衛事業基金に20億ドル ロシア領内

ワールド

米、今秋に中国製「つながる車」規制案 商務長官「安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中