最新記事

サイエンス

地球温暖化の解明なるか 南極の「棚氷」分析に挑む科学者たち

2019年2月26日(火)17時32分

チリ南端から数百キロ、南極の端に位置するこの島の観測基地で、科学者が氷の採取に精を出している。2日、キングジョージ島の氷河を観測するチリ南極研究所の観測船(2019年 ロイター/Fabian Cambero)

チリ南端から数百キロ、南極の端に位置するこの島の観測基地で、科学者が氷の採取に精を出している。気候変動から、がんの治療法まで、さまざまな課題への手がかりを見つけようというのだ。

キングジョージ島にあるチリのエスクデロ基地を拠点に、さまざまな国からやって来た科学者300人以上が、凍てつく寒さに耐えながら南極点までの広大な範囲で採取にあたっている。

チリ南極研究所(INACH)は、南極に自生する植物から見つかった「アンタルティーナ」と呼ばれる生体分子の研究を支援している。初期段階の研究では、ネズミを使った実験で、大腸や肝臓や胃がんの治療に効果がみられたという。

また、アルツハイマー病の治療に使える可能性がある地衣類や、牛乳からラクトースを取り除く酵素、レタスの生育を促進する効果がある別の酵素なども研究している。

今月には、多国籍の科学者チームが、地球温暖化との関連が指摘されている棚氷分離の原因調査に出発した。

2017年に、カリブ海の島国トリニダード・トバゴの国土に匹敵する大きさの巨大氷山が棚氷から分離し、船舶事故や海面上昇などへの懸念が広がった。

「棚氷を侵食する海水温上昇の原因については、さまざまな仮説が出されている。水の動きや排水についての仮説もある」

科学者チームを率いるニュージーランドの氷河学者シェリー・マクドネル氏は、影響が出ている氷山の1つに向けて出発する準備をしながら、こう話した。

マクドネル氏の研究チームは、棚氷のどの箇所でいつ分離が起きるか予測可能にすることを目標にしている。

この研究で、今後数十年にわたり南極大陸の地形図の作成を容易にし、島国や沿岸国が海面の上昇に備えることを可能にしたいと願っている。

「南極のエコシステムについては、今後の温暖化の展開と同様、早急に研究されるべき分野が数多く残っている」。INACHのマルセロ・レッペ所長はこう話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中