最新記事

2大レポート:遺伝子最前線

クリスパー開発者独占インタビュー「生殖細胞への応用は想定内」

“NOT SURPRISING”

2019年1月17日(木)16時40分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

開発者のダウドナはクリスパー技術の用途の広さを強調する BRIAN ACH/GETTY IMAGES FOR WIRED

<遺伝子編集を可能にする技術「クリスパー・キャスナイン」開発者のジェニファー・ダウドナに聞いた、ヒト胚DNA改変と遺伝子編集の真の目的>

※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

◇ ◇ ◇

先天性疾患を予防するために、ヒト胚のDNAを改変することは可能――未来を予見したようなこの論文が、オレゴン健康科学大学の研究者らによって発表されたのは2017年のこと。この研究は、遺伝子編集を可能にする新技術クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)の威力を改めて見せつけた。だが、この研究によってヒト胚を編集することに対する激しい議論が巻き起こったなか、見過ごされていた事実がある。クリスパーの用途が非常に多角的だという点だ。

クリスパーの技術は、癌から糖尿病、感染症まで多様な疾患の有効な治療法を開発するために利用されている。さらに、遺伝子編集を農業の問題やバイオテロ対策、環境問題の解決に応用しようと取り組む研究者もいる。

クリスパー技術が最初に見いだされてからというもの、遺伝学者たちはあらゆる生物の遺伝情報を改変するためのツールとして、研究室内でこの技術を応用してきた。そして17 年にネイチャー誌に発表された研究が、クリスパーをヒト遺伝子に応用することへの倫理をめぐる議論を引き起こした。近い将来、デザイナーベビーの誕生が可能になるのではないか、と人々に不安を呼び起こしたのだ。

画期的なクリスパー技術の開発者の1人であるカリフォルニア大学バークレー校の微生物学者ジェニファー・ダウドナに、クリスパー技術の急速な進化や、その望ましい将来像について、本誌ジェシカ・ファーガーが聞いた。

――2017年のネイチャー誌に載った研究を、あなたはどう受け止めたか。

ある意味、驚きはなかった。遺伝性疾患の治療を目的としたゲノム編集のためにこの技術を応用できるのでは、という関心は常に付きまとっていた。この技術を生殖細胞系列に応用できれば、誕生時から疾患遺伝子変異を予防することも可能になる。

2017年の研究で本当に注目すべきは、患者の治療に道を開いたこと。こうした胚で、実現可能な遺伝子編集のプロセスが確立されたことだ。

――胚のDNA編集を行わずにこの技術を生殖医療に役立てる方法はあるか。

遠くない将来、ヒトの体細胞から配偶子(卵子や精子)を作ることが可能になるだろう。動物実験では既に成功している。人間でこれが可能になれば、遺伝性疾患を抱える患者の配偶子をクリスパー技術で作り、それを用いて体外受精することができる。ただしこの場合、胚のDNA編集は行っていないものの、クリスパーで遺伝に影響を与えるという問題は解決されていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米シェブロン、4月に最も空売りされた米大型株に テ

ワールド

米ユーチューブ、香港で民主派楽曲へのアクセス遮断 

ワールド

英米当局者、中国のサイバー脅威に警鐘 「今後数年は

ビジネス

メタ、Workplace打ち切りへ AIとメタバー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中