最新記事

BOOKS

「意識高い系」スタートアップの幼稚で気持ち悪い実態

2017年8月14日(月)19時19分
印南敦史(作家、書評家)


 ハブスポッターの鑑とされるのは、GSDという資質を示せる人。「get shit done(仕事を完璧にやる)」の頭文字だ。これは形容詞として使われている。「コートニーって常に、スーパーGSDモードだよね」のように。そして、顧客の研修セミナーを指導する人たちは、インバウンド・マーケティング・プロフェッサー(教授)と呼ばれ、ハブスポット・アカデミーの教授団の一員だ。おまけに、私たちのソフトウェアは魔法のようだから、それを使えば――聞いて驚くな――1足す1が3になる。(92ページより)


 こうしたおバカなエピソードの数々は、何を意味しているのだろう? 私にはわからない。ただあっけにとられるのみだ。同時に、ハブスポットの人たちの自己評価の高さにも、驚嘆するほかない。彼らは「最高!(オーサム)」という言葉をひっきりなしに使っているが、たいていは自分自身やお互いを表現するためだ。「あれはオーサムだね!」「君はオーサムだよ!」「いやいや、ぼくをオーサムと言うなんて、君こそオーサムさ!」(93ページより)


 コミュニケーションには、びっくりマークを織り交ぜる。たいていこんなふうにまとめて!!!。ホームランを打った誰か、オーサムなことをした人、完璧なチームプレイヤー!!! を褒めちぎるメールを、しょっちゅう送り合う。こうしたメールはCCで部の全員に送られる。しきたりとしては、受け取った全員がまた「全員に返信」をクリックし、声援に参加する。「やったね!!!」「行け、ハブスポット、行け!!!」「アシュリーを社長に!!!」なんてメッセージを添えて。(93ページより)


 ハロウィンパーティはめちゃくちゃだ、と聞いてはいたけれど、入社して半年たっても、こんなものに遭遇する心の準備はできていなかった。私以外の誰もが、仮装して出勤している。至るところで、大の大人たちが駆け回り、大はしゃぎで叫び、金切り声を上げ、自撮りしようとポーズを取っている。スマーフ、魔女、セクシーな女海賊、セクシーな白雪姫、いたずらな小悪魔、ハリー・ポッターのキャラクターたち......。誰もが必死でみんなに伝えようとしている。底抜けにステキなこの会社で、底抜けにイケてるこの人たちと、最高に楽しい時を過ごしてる! と。
 でも、イケてなんかいない。悲しい。そして異様だ。(168ページより)

引用が多くなってしまったが、これらはハブスポットの、ひいては "よくないスタートアップ"にありがちな非常に興味深いエピソードだと感じるので紹介せざるを得ない。

彼らにとっては、自社をいかにアグレッシブに成長させていくかなどはどうでもいいこと。自分たちがいかに"意識の高い"ライフスタイルを維持しているかのほうが重要なのだ。その感覚は、インスタグラムに「自分はイケてる」系の自撮り写真をアップする若者のスタンスと酷似している。

【参考記事】ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

内外の諸課題に全力で取り組むことに専念=衆院解散問

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中