最新記事

テクノロジー

グーグルが説く、ネット上のISIS封じ込め策

リアルとバーチャルの両方に領土を得た最初のテロ組織を壊滅させるのに欠かせない作戦とは

2016年1月21日(木)15時39分
スン・リー

拡散手段 パレスチナ難民のキャンプにはためくISISの旗 Ali Hashisho-REUTERS

 テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)が、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを通じて過激な思想を広め、「ジハーディスト(聖戦士)」を勧誘しているのは周知の事実だ。勧誘だけではない。新しい町への侵攻に先駆けて人々が震え上がるような殺戮の動画を流すなどして意気を阻喪させるなど物理的な戦争にも貢献している。

リアルとバーチャル両方で領土を得た初のテロ組織

 この宣伝マシンを止めるにはどうすればいいのか。グーグルのシンクタンク部門でハッカーやサイバーテロ対策の研究お行っている「グーグル・アイデアズ」を率いるジャレッド・コーエンは今週初め、ロンドンの王立国際問題研究所で行った演説でこう語った。「トーア」という特殊なブラウザを使用しなければアクセスできない「ダークウェブ」の世界に、ISISを封じ込めればいい。そうすれば、オープンなウェブを利用している一般ユーザーが彼らのメッセージや動画を目にする機会はほとんどなくなる。

「ISISはバーチャル世界と現実世界の両方で『領土』を獲得した初めてのテロ組織だ」と、コーエンは言う。ネット上の領土からも追い出さなければ、地上の戦いでの勝利もおぼつかないだろう。

 ISIS対策は米大統領選の最大級の争点ともなっている。民主党の有力候補ヒラリー・クリントンは、イノベーションで知られるグーグルなどシリコンバレーの企業に、その技術力を生かしてISISを攻撃するよう呼び掛け、ISIS支持者のサイトやアカウントを閉鎖するよう訴えた。

 シリコンバレーはこの呼び掛けに密かに応じている。フェイスブック、ツィッター、グーグルはISISの宣伝に利用されるサイトを次々に閉鎖。迅速に閉鎖するため公式な手続きを省略することもある。ネット利用者に政府の手先とみられかねないので、内部で粛々と作業を進めているのだ。

 だがコーエンによれば、サイトやアカウントを閉鎖するだけでは十分ではない。「ありがちなのは、テクノロジーを通信と同じと思い込むことだ。ネットの表面から過激なメッセージを一掃すれば終わり、というわけではない」 

 例えばISISは、迷惑メールと似た使うことがある。次々に偽アカウントを開設して、実際よりはるかに多くの支持者がネット上に存在するかのように見せるのだ。チャットや暗号化されたメッセージ機能も使っている。

 たとえネット上の末端組織を潰しても、ネット戦術を中央で指揮しているグループを特定し、追放しなければネットからの攻撃は止まらない。ダークネットに隔離をするのはその有効な手段の1つだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ海上搬送物資、国連が新たな輸送ルート 持ち去り

ワールド

中国、今後もイランと関係強化 王毅外相が大統領死去

ビジネス

機械受注1─3月は前期比4.4%増、先行きは減少見

ビジネス

米メーシーズ、通期利益見通し上方修正 新CEOの計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中