最新記事

映画

小児性愛者や人身売買業者が登場する『サウンド・オブ・フリーダム』は派手なQアノン映画か? まともな批評に値する作品ではない理由

A Controversial Crusade

2023年8月25日(金)14時10分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
主演のカビーゼル

主演のカビーゼルが陰謀説を喧伝したほか、保守系メディアの出資を受けていることも判明している ANGEL STUDIOSーSLATE

<児童人身売買の闇に切り込む一方で、陰謀説との関連が指摘され批判を浴びた問題作>

「この場所へ来るのは、魔法を見るためです」――ピンストライプのスーツで決めた女優ニコール・キッドマンが、そうつぶやいて向かった先は大手映画館チェーンAMCの素敵な劇場。新型コロナのパンデミックで閑古鳥の鳴いた劇場に客を呼び戻すべく、AMCが今も上映前に流しているCMの決めぜりふだ。

【動画】映画『サウンド・オブ・フリーダム』予告編

実際、私たちは魔法を見たのかもしれない。アメリカで7月4日の独立記念日に公開されるハリウッド映画と言えば、たいていは現実逃避の娯楽超大作。だが『サウンド・オブ・フリーダム』(監督アレハンドロ・モンテベルデ)は真逆のシリアスな作品なのに大ヒットし、初日だけで1400万ドル、最初の2週間ほどでなんと1億ドルも稼いだ。

この話題作は2018年に完成し、FOXが翌年の公開を予定していたが、ディズニーがFOXを買収した後、お蔵入りになっていたもの。公開前に主演俳優のジム・カビーゼルがQアノン流の陰謀論――児童人身売買の背後に大物政治家あり――を吹聴したことで物議を醸した、いわくつきの作品でもある。

カビーゼル扮するティム・バラードは国土安全保障省の元捜査官。ベースになっているのは、性的搾取を目的に誘拐され売られていく子供たちを救うためなら、違法捜査もいとわず奮闘したバラードの実話だ。

Qアノンの陰謀論に加担

作中に登場する小児性愛者や人身売買業者は、いかにも怪しげで変態っぽい(まるで100年前の映画だ)。一方で、少年少女で性欲を満たそうとする変態成人には大金持ちや権力者もいることをほのめかしてもいる(そういう人物を誘い出すために、主人公は小児性愛者向けの会員制高級クラブ経営者を装う)。

作中でQアノンやそれに類する陰謀論が語られることはない(映画の製作は一連の陰謀論が広まる前に始まっていた)。だがカビーゼルは本作の宣伝ツアーで、子供の身体の一部が国際的な闇市場で石油の1000倍の高値で売買されているのは事実だと、熱く語っていた。

現実のバラードも、毎年1万人もの少年少女が性的搾取の目的でアメリカに密輸されているという、何の裏付けもない数字を言いふらしていた。この数字を、ドナルド・トランプは2016年の大統領選で何度も何度も繰り返したものだ。そして大統領就任後のトランプは、バラードを国務省の人身売買諮問委員会の共同議長に据えている。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証券Gとかんぽ生命、資産運用分野で資本業務提携

ワールド

インド卸売物価、4月は前年比+1.26% 1年ぶり

ビジネス

米ウーバー、独デリバリー・ヒーローの台湾事業買収 

ワールド

インフレ抑制に「全力尽くす」、引き締め維持=トルコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中