最新記事

日銀

「ポスト黒田」に「植田新総裁」が望ましい訳──世界最高の経済学を学んだ男の正体

The Unexpected Man

2023年2月22日(水)15時30分
浜田宏一(米エール大学名誉教授、元内閣官房参与)
日銀

新総裁の決断は日本経済の進む方向を大きく左右する(東京・日銀本店) YOSHIO TSUNODA/AFLO

<世界最高の経済学を学んだ植田和男が「ポスト黒田」に──10年続いたアベノミクスをどうすべきなのか>

日本政府は次期日本銀行総裁候補に元東京大学経済学部教授で、同行審議委員だった植田和男氏を指名した。初めての経済学者の総裁指名で、やや驚きをもって迎えられているが、黒田東彦総裁の今まで取ってきた緩和路線を大局的には継承する岸田内閣の決定は、望ましいものであると思う。日銀総裁は物価水準や雇用に直接影響を与える金融政策の責任者であり、金融やマクロ経済に対する最善の知識を持つことが望ましいが、植田氏は米マサチューセッツ工科大学(MIT)でおそらく世界最高と言ってよい教育を受けた学者である。

日本では、学者出身者が日銀総裁に選ばれることがなかったが、世界では米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の総裁にジャネット・イエレン、ベン・バーナンキ、マリオ・ドラギなど学者を体験した人物が多い。

しかも、バーナンキとドラギがそうであるように、MIT大学院卒業者が多く、植田氏の任命はこの伝統の上にある。植田氏の学んだMITの経済学大学院は、ボストンを流れるチャールズ川を見下ろすビルにあり、アメリカのトップ奨学金である全米科学財団(NSF)の奨学生の比率がもっとも高いという評判だった。私も客員研究員として在籍したが、忙しい教員が多く、質問に行く学生も自分の問題を短時間で直観的に説明できないと、「出直して来い」と言われるような緊張した雰囲気だった。

しかし、植田氏はいつも象牙の塔に籠もっていたわけではない。大蔵省財政金融研究所の主任研究官を経験し、日銀でも政策審議委員を7年間務めている。その意味で経済学の知見だけでなく、実際の政策経験もあり、財務省と中央銀行の微妙な牽制も実地で見ている。

植田氏は当初東大理学部で数学を専攻・卒業した後、経済学部に学士入学し、故・宇沢弘文教授の下で数理経済学を学んだ。

東大に帰任する前にシカゴ大教授だった宇沢氏は、多くが将来のノーベル経済学賞受賞者となる優秀な若手学者を各大学から呼び集め指導していた(私がアマルティア・セン、ジョセフ・スティグリッツ、ロバート・ルーカスなど経済学の巨人に初めて会ったのも宇沢氏の勉強会だった)。日本でも植田氏のほか、今回日銀総裁の有力候補だった雨宮正佳日銀副総裁、貸出における担保のマクロ的効果を解明した清滝信宏・プリンストン大教授などを育てている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中