スタンフォード大MBA学生の9割が受講する「人間関係」の授業の中身
エレーナが抱える過去の経験は、以前所属していた職場で上司に盾ついて解雇を言い渡されたというもの。解雇の背景を紐解けば共感を得られるような内容だが、同僚にこのことを伝えることのリスクが頭をよぎり、口をつぐんでしまったという。
リスク回避は賢い選択かもしれないが、エレーナのように慎重に振る舞いすぎて、関係を停滞させてしまう人が多いのも事実。このジレンマにどう向き合えばいいのだろうか。
著者のブラッドフォードとロビンが提案するのは「15%試してみようルール」だ。
同心円状の三重の輪をイメージしてほしい。中心から外に向かうにつれて「居心地のよさ」の度合いが減っていく。
中央の小さな円は「快適ゾーン」。深く考えることなく言葉を発し、行動しても、まったく問題ないと感じる状態を指す。一方、一番外側の輪は「危険ゾーン」。悪い結果につながる可能性が極めて高いため、口にしたり行動に移したりしない言動が含まれる。そして、2つの間に位置するのが「学びのゾーン」。相手の反応を予測できない状態がここに該当し、人はこのゾーンでの経験を通じて多くの学びを得る。
思い切って「学びのゾーン」に飛び出してみたら、意図せずして「危険ゾーン」に入ってしまうのではと恐れる学生たちに提案するのが、「快適ゾーン」から15%分だけ「学びのゾーン」に足を踏み入れてみるという穏やかなアプローチだ。
このアプローチはうまくいかなくても深刻な事態にはなりにくく、逆にうまくいけば、相手に自分を深く知ってもらえるというメリットがある。そして、うまくいけば、さらに15%外に踏み出す選択肢も浮上してくる。
学びを生む原動力は、快適ゾーンの外に踏み出すことだ。初めてスキーをするときは上級者コースではなく初級者コースを選ぶが、ひとたび滑り方をマスターしたら、挑戦しがいのあるコースに移らなければ上達は望めない(これが15%に当たる)のと同じ。
新しいコースにチャレンジするときには怖かったり、逆にわくわくしたり、あるいはその両方かもしれないが、ある程度の時間が経つと快適ゾーンが広がっていることに気づき、さらに難しいコースに行けそうな気がしてくるものだ(これが次の15%)。
もちろん初級者コースに居続けることも可能だが、上達は望めない。同じようにできることを少しずつ増やしていくプロセスこそが人間関係構築のカギであり、それがあって初めて自己開示を重ねるための土台が整う。
では、エレーナにとっての「15%」とはどんなものだろうか。
前職を解雇されたことまで打ち明ける必要はないが(そこまでやると、危険ゾーンに入りかねない)、前の会社で不快な思いをしたことは伝えられたはずだ。