最新記事

東日本大震災

震災から10年、トヨタが受けたサプライチェーン寸断 半導体不足で教訓いかす

2021年3月11日(木)12時30分

2011年3月11日に発生した東日本大震災は東北から関東の広い範囲に大きな被害をもたらした。写真は被災したトヨタ車。2011年3月23日、宮城県東松島市撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

トヨタ自動車が半導体という基幹部品の調達体制を見直したのは今から10年前、東日本大震災の影響で生産調整に追い込まれたのがきっかけだった。発注してから納品までのリードタイムが長い半導体は、いざというときに備えて十分な在庫を確保しておく必要があると認識した。長年にわたり社内に蓄積してきた半導体への知見と相まって、トヨタは生産が止まりかねない「有事」への抵抗力を身に着けた。

ロイターは、事情に詳しい複数の関係者に取材。足元で世界的な半導体不足が広がり、自動車各社が減産する中、在庫を極力持たないジャスト・イン・タイム方式の先駆者として知られるトヨタの生産に、大きな支障が出ていない背景が浮かび上がってきた。

「対応できているのはトヨタだけ」

車載情報システムや高級オーディオを手掛けるハーマン・インターナショナルは、昨年11月ごろから製品に使う中央演算処理装置(CPU)やパワー半導体の不足を感じるようになった。しかし、トヨタ向けに納める製品に必要な半導体については、4カ月分以上の在庫を調達済みだったと、ハーマンとトヨタの取引に詳しい関係者は話す。トヨタとの間で結んでいる契約のためだった。

半導体は昨年から今年にかけ、世界的に需要が一気に高まった。高速通信規格5Gの整備が本格化し始めたところに、新型コロナウイルス禍でリモート勤務が広がり、パソコンなどデジタル機器の出荷が伸長した。

一方、自動車はコロナで販売に急ブレーキがかかり、車載用半導体もいったん生産を落とした。夏ごろから需要が急速に回復したものの、自動車向けの半導体は生産が追いつかない状態が今も続いている。

関係者4人によると、特に不足しているのはマイコンと呼ばれるMCU(マイクロコントローラーユニット)で、ブレーキやアクセル、ステアリング、エンジンの点火と燃焼、タイヤの空気圧、雨天の感知など幅広い機能を制御する。

フォルクス・ワーゲン(VW)やゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ホンダ、ステランティスなど、自動車各社は半導体の調達が間に合わず相次ぎ生産調整に追い込まれた。その中でトヨタは2月の決算発表で、半導体不足による生産への影響は大きくないと明らかにし、業界関係者や投資家を驚かせた。トヨタは2021年3月期の販売計画を31万台積み増し、営業利益の見通しを54%引き上げた。

「我々が知る限り、今の半導体不足にうまく対応している自動車メーカーはトヨタだけだ」と、前出の関係者は言う。

震災で教科書を書き直し

2011年3月11日に東北から関東の広い範囲を襲った強い地震とその後の津波は、トヨタのサプライチェーン(供給網)を寸断した。仕入れ先が被災し、およそ500品目に及ぶ部品や素材の調達を早急に手当てする必要に迫られた。被害を受けた取引相手には、ルネサスエレクトロニクスの車載用半導体工場も含まれていた。

状況は1995年の阪神・淡路大震災のときより深刻で、生産が正常化するまでに国内は4カ月、海外は半年かかった。

トヨタの代名詞とも言えるジャスト・イン・タイム生産方式にとって、大きな衝撃だった。必要なものを・必要なときに・必要な量だけ作り、在庫をなるべく持たない生産管理手法によって、トヨタは効率と品質の面で業界の盟主となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中