最新記事

コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学

行動経済学で考える、コロナ対策・景気浮揚策・社会的距離戦略

BEHAVIORAL ECONOMICS

2020年5月28日(木)17時55分
ジョナサン・ハートリー(エコノミスト、米議会両院合同経済委員会・元上級政策顧問)

社会的距離は効果が高く「お買い得」な戦略だ

政府は国民の生死を左右する決断を常に迫られているが、アメリカでは以前から、統計的生命価値(VSL)、つまり死亡確率を減らすために認められるコストを1人当たり約1000万ドルと考えて生命や健康の安全を守る政策の柱としてきた。

シカゴ大学のマイケル・グリーンストーンらは最近の論文で、社会的距離戦略によりアメリカでは170万人の命が救われるだろうと述べている。社会や経済に強いる負担が大きいだけに、社会的距離戦略のVSLがどうなるか、分析してみるのも意味のないことではないだろう。

私の計算では、2カ月間の都市封鎖によってアメリカのGDPは10%、約2兆ドル失われる。それと引き換えに、グリーンストーンらの言うように170万人の命が救われるとすれば、1人の命を救うのに必要な費用は約120万ドルとなる。つまり、1人の命を救うのに1000万ドルのコストを許容してきたアメリカにおける過去の政策と比べても、社会的距離戦略のコストは安いということになるのだ。

◇ ◇ ◇

ここまで、コロナ禍で失われた価値を取り戻し、さらなる価値を手にするために、行動経済学の経験主義的な研究が消費者や投資家、政策立案に携わる人々の行動のヒントとなり得る例を(ほんの一部だが)挙げてきた。これが読者の皆さんの役に立つことを心から祈っている。

<2020年6月2日号「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集より>

【参考記事】コロナ禍での『資産運用』に役立つ行動経済学(3つのアドバイス)
【参考記事】消費者が思うより物価は高い(コロナ不況から家計を守る経済学)

20200602issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中