最新記事

韓国社会

文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」組の絶望

2019年12月5日(木)19時36分

「コシウォン」と呼ばれる施設の小部屋で暮らす26歳のキム・ジェフンさんは、「スタートラインが違うという点について文句を言うことはできない」と話す。写真は11月7日、韓国の水原市で撮影(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)

ファン・ヒョンドンさんは、自身が通うソウル市内の大学キャンパスに近い6.6平方メートルの小部屋で暮らしている。浴室とキッチンは共同、米飯だけは無料で食べられる。家賃は月35万ウォン(302ドル)だ。

こうした「コシウォン(考試院)」と呼ばれる施設に並ぶ貧相な部屋は、以前はもっぱら、公務員試験のため一時的に缶詰め状態で勉強をしようという、あまり裕福でない学生が利用する場所だった。

だが昨今は、ファンさんのような貧しい若者の恒久的な住まいになる例が増えている。ファンさんは「泥スプーン」組の1人を自称する。「泥スプーン」とは、社会的な成功をほぼ諦めた低所得世帯の出身者を指す言葉だ。

「一生懸命頑張って、いい仕事を見つけられれば、家を買えるようになるだろうか」。 衣類がベッドに積まれた、狭苦しい雑然とした部屋で暮らす25歳のファンさんは「そもそも私の力で、ただでさえ大きな格差を縮めていけるだろうか」と言う。

低所得世帯の出身者を意味する「泥スプーン」組と、裕福な家庭の子息を示す「金スプーン」組という言葉はよく知られているが、ここ数年、急速に政治的な場面で口にされるようになり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持を押し下げる要因になっている。

文在寅氏は、社会的・経済的公正を公約に掲げ、2017年に大統領の座に就いた。だが、5年の任期も半ばになろうというのに、格差拡大という重荷を背負わされた韓国の若者に対して、ほとんど成果を示せないままだ。

文政権になって以来、逆に所得格差は拡大している。公式統計によれば、最上位層と最下位層の所得格差は、文大統領就任前の4.9倍から5.5倍に上昇した。

メディア論を研究する大学3年のファンさんによれば、「泥スプーン」組には自分を含め、以前であれば懸命に努力すれば何とかなると考えがあった。しかし、曺国(チョ・グク)前法相をめぐる汚職疑惑が彼らの怒りに火をつけた。

曺前法相と大学教授である彼の妻は、2015年、自分の娘を医学部に入学させるために自らの地位を利用したとして告発された。

曺氏は自分が恵まれた階層の出身であり、社会正義の追求をモチベーションとするいわゆる「江南左派」であることを自認しているが、そうしたアプローチは反発を買い、就任後わずか1ヶ月の10月に辞任した。同氏の妻も、文書偽造や金融詐欺の容疑で告訴されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル157円台へ上昇、34年ぶり高値=外為市場

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中