最新記事

日本社会

ポイント還元終了してもキャッシュレスは定着するか? 生産性改革のカギにも 

2019年11月2日(土)12時06分

脱・現金で狙う生産性改革

政府がキャッシュレス決済を強力に支援する背景には、非製造業の生産性改革という狙いがある。

経済産業省は、その目的は「小売業の効率化、そして生産性の向上」(キャッシュレス推進室)だと言い切る。

18年4月に同省がまとめた「キャッシュレスビジョン」では、「労働者人口減少の時代を迎え、国の生産性向上は喫緊の課題」と、その狙いを掲げている。店舗などの無人化・省力化のほか、年間1兆円と言われるレジの現金取り扱いコストの節約と、平均4時間のレジ労働時間の削減を、他の付加価値の高い仕事へ振り替えようというものだ。小売やサービス分野での生産性への寄与は大きいとみている。

実際に消費の現場ではメリットを感じている企業もある。ローソンの金融・デジタル事業本部の熊谷智・執行役員は「現金ハンドリングのオペレーションや外国人客の支払い対応が楽になるほか、後払いにより客単価が上がっている効果もある」と、実際に消費の現場でのメリットを指摘する。

ビジネスモデルに課題

ただ政府の狙い通りに脱・現金が生産性の向上に寄与するのかは、今のところ未知数だ。

JR東日本ではSuicaのような移動データなどプライバシーにつながるデータの活用は「考えていない」としている。

paypayでは、親会社であるヤフー・ジャパンのインターネットサイト広告への活用が視野に入る。さらにその先、生活全般にわたるサービスの展開を構想中だ。すでに公共料金支払いサービスには参入。加えて金融サービス、貯蓄・投資、チケットなどのサービスといった生活ツール全般にわたる事業との連携を想定、「提携先と一緒に利益をわかちあう形のビジネスを想定している」(柳瀬氏)という。

ただそのためには、payapayが広く支払手段として定着し、同社と提携することが大きなメリットと企業に感じてもらうことが前提だ。

従来から「Pontaカード」発行による会員組織を持つローソンでは、性別や年代といった属性と購買動向のビッグデータを、売上予想や新商品の開発、流通の効率化などに活用してきた実績があり、データ活用の効果は大きいとしている。

それでも「まだ決済のスタンダードは混とんとしている。現金信仰の強い日本でどの程度キャッシュレス決済が定着するかは不透明だ」(熊谷氏)として、現金も含めて消費者のニーズに合わせた決済手段の提供を判断していく姿勢を示している。

(編集:佐々木美和)



中川泉 梶本哲史 清水律子

[東京 1日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!


事故機の捜索について伝える韓国メディア YTN NEWS / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中