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インドと日本の「非欧米型」イノベーションから学べること

2017年8月8日(火)19時17分
ニヒル・ラバル(デューク・コーポレート・エデュケーション・インド経営幹部) ※編集・企画:情報工場

インド北部ジャイプルの街角。このような環境が「倹約イノベーション」を生む Radiokukka-iStock.

<日本企業の「出向」システムから、現代インドの「2000ドル自動車」まで、欧米とは異なる形のイノベーションから得られる学び>

「イノベーション」という言葉からは、グーグル、アマゾン、イーベイなどの企業を思い起こす人が多いだろう。確かに、これらがいずれもイノベーティブな会社であることは間違いない。しかし、私たちは日本をはじめとする東洋の国や地域からも多くのことを学べる。

1980年代から90年代にかけての日本のイノベーションから、3つの学びが得られる。

1つ目は「長期的視点で市場のチャンスを伺う」姿勢だ。日本企業、特に電機メーカーは、創立当初からそのような哲学を全社に浸透させていた。だからこそ彼らは、次から次へと優れたイノベーションを起こすことができたのだ。日本企業は目の前の利益よりも「次の四半期」の数字を熱心に追求する。

2つ目はオープン・イノベーションの重視。これは、日本人自身は意識していないかもしれないが、「出向」という流動性の高い雇用システムによるところが大きい。出向のおかげで、同僚同士やサプライチェーン、顧客との距離が縮まり、協働しやすくなる。

3つ目の学びは、従業員の教育とマネジメントだ。日本の経営者は人材がイノベーションの最重要リソースと考えている。そして、従業員全員が組織全体や顧客、競合について深く理解することを求める。従業員に、自社の未来や、産業全体の方向性について、あるいは顧客のニーズがどのように変化していくかなどを考えさせるのだ。それによって組織はアイデアで溢れかえることになる。

他国の模範となる現代インドの「倹約イノベーション」

一方、現代のインドは「倹約イノベーション」というコンセプトを打ち出し、他国の模範となっている。インドは、概して財力、材料面、また施設設備面でリソースが限られている。倹約するにはイノベーションを起こし頭を絞るしかない。そうして、著しく低いコストで商品やサービスを実現させる。それが倹約イノベーションだ。

単にコストを抑えるだけが倹約イノベーションではない。例えば、ムンバイにジャイプール・フットという企業がある。この会社は、ゴムや木材、タイヤコード(タイヤの製造に使われる繊維)を原料にした義肢を50ドル以下で製造している。だがこの義肢は、1万2000ドルかけて作られた製品に匹敵する性能があるのだ。低コストだが低品質ではないということだ。

タタ・モーターズはたった2000ドルの自動車「ナノ」を発表し、世界を驚かせた。ナノのビジネスモデルは、すべてのプロセスにおいて倹約イノベーションの斬新さを示している。メーカー側に原価目標を達成させるとともに、自家用車を所有することなどとてもかなわなかったような数百万もの人々の夢を現実化した。

また、新しいエンジン管理システム、ステアリングシャフトの軽量化、エンジン冷却モジュールの改良など、技術面の進化も伴っていた。革新的な自動車を組み立てるための、世界中のパートナー企業とのネットワークもできた。さらにこのイノベーションには、修理・メンテナンス、融資などサービス面の改革も欠かせなかった。

【参考記事】階層、意思決定、時間感覚......インド事業の文化の壁

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