最新記事

自動車

アップルiCarには期待できない理由

2010年7月1日(木)17時36分
マシュー・デボード

 アップルは技術系企業には違いないが、グーグルやマイクロソフトとはかなり性格を異にする。実際のところ、アップルはソフトウエア事業もできる超一流の工業デザイン会社なのだ。

 そんなアップルが自動車メーカーと提携したらどうなるか。自動車メーカーにとっての開発とは、あらゆる点で工業デザインと関わっている。それと比べたらアップルの工業デザインのプロセスなど児戯に等しい。

垂直統合は車でも時代遅れに

 自動車産業は設計とエンジニアリングが組み合わさった非常に複雑な事業だ。シリコンバレーのアイデアを活用し、なおかつ未来の車として世間から期待されている例といったら、テスラ・ロードスターくらいのものだろう。

 テスラ・ロードスターはロータス・エリーゼの車台にノートパソコン用の充電池を6000個も積んだ電気自動車だ。たしかにホットな製品だが、既製品を組み合わせて作ったものに過ぎない。そしてアップルはそういった物は作らない。アップルは製品をとことんコントロール下に置こうとする。

 だがこの手法は最近の自動車産業では通用しなくなっている。皮肉なことに自動車業界は「ITビジネス化」を目指している。新型車の製造に依存するのをやめ、ドライビング関連のサービスを消費者にどのように提供できるか検討しているのだ。

 その一方でアップルは旧来からフォードやGMが推進してきた垂直統合型のビジネスを真似しようとしている。製品・開発・流通のあらゆる部分まで自社でコントロールしようとしているのだ。

 今の時点でそれはうまくいっている。かつては自動車メーカーもそうだった。だがトヨタがもっと効率的なプロセスを編み出すと、垂直統合型は突然、機能不全に陥った。

 アップルにとってもそれは「いつか来た道」だ。スティーブ・ジョブズが戻ってくる前、革新的であり続けることができなくなって倒産しかけた時のことだ。

漸進的進化を否定する文化

 すでに出来上がったアップルのフレームワークよりも、アンドロイドや他のオープンソースのほうが技術革新には向いている。

 携帯端末の世界においては、アップルはアンドロイドの一歩先を行っている。だがアンドロイド上で動く自動車向けのアプリケーションを拡充させることができれば、アップルを追い越すことは可能だ。

 例えばアンドロイドを搭載したGMの車がたくさん道を走るようになれば、グーグルは交通情報サービスを構築するに足るデータを集めることができるかもしれない。

 アップルは今のところ、自動車事業からは距離を置いていられる。同社がグーグルやマイクロソフトに脅威を感じるようになってからでも、新規参入してiCarを売り出すチャンスは残っているだろう。

 だが、今もてはやされているアップル製品の使い心地を自動車に持ち込むのは難しいだろう。アップルは常に譲歩を余儀なくされることになる。

 だがマイクロソフトとグーグルは違う。特にグーグルは、アンドロイドが新しく取り入れた機能をシームレスにアップデートしていけるよう努めるはずだ。アンドロイド搭載自動車は、たとえ旧型になってもアップデートのおかげで最新の機能を備えることができるようになるだろう。アップルにはできない芸当だ。

 だからこそ、アップルは自動車ビジネスに手を出さない。新型iCarに比べたら古いiCarなんて話にならない、というのがアップル流なのだから。

The Big Money特約)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中