最新記事

鉄道ファンが語る「好きなとこ、嫌なとこ」

ニッポン大好き!

鉄ちゃんからキャラ弁、憲法9条まで
外国人の匠が語る日本文化の面白さ

2010.05.21

ニューストピックス

鉄道ファンが語る「好きなとこ、嫌なとこ」

オリバー・マイヤー(「日本鉄道友の会」メンバー)、アントニー・ロビンス(「日本鉄道友の会」日本エリアコーディネーター)

2010年5月21日(金)12時09分
森田優介(本誌記者)

尽きない情熱 暇を見つけては日本各地の鉄道を回るというロビンス(左)とマイヤー PETER BLAKELYーREDUX

「池袋が日本の第一印象だった」とオリバー・マイヤー(40)は言う。正確には「池袋駅」だ。電車が次々に入ってきて、すべてが満員----ドイツから初めて日本を訪れた20歳のマイヤーにとって、バスで成田空港から到着した池袋で見たプラットホームの光景は驚きだった。鉄道マニアではなかったが、彼はそれを機に日本人顔負けの「鉄ちゃん」に。今では日本の鉄道雑誌も読む。

 一方、83年から計20年以上も日本で暮らすアントニー・ロビンス(49)は、イギリスにいったん帰国した91年にロンドンで「日本鉄道友の会」に出合った。ヨーロッパを中心に240人の会員をもつ、日本の鉄道の愛好家の団体だ。

 名古屋近郊に住む2人は、共に愛知教育大学で教壇に立つが、イギリスやドイツから来日する鉄道マニアたちの「ツアーガイド」という顔ももつ。本誌・森田優介が愛知県の豊橋で話を聞いた。

----日本の鉄道をどう思う?

マイヤー 世界一ですね。日本にはJRも私鉄もある。ヨーロッパで私鉄といえば小規模な鉄道会社をイメージするけれど、東急はスイス国鉄より規模が大きい。鉄道会社も路線も駅もいろいろあって、とにかく見どころが多い。

ロビンス 地方の私鉄のなかには古い中古車両を使っている会社がある一方、この国には新幹線も走っている。この春(日本鉄道友の会の訪日ツアー参加者のなかに)ヨークシャー地方の鉄道関係者がいたんだが、彼は複雑な路線や乗客の多さに仰天していたよ。ある鉄道ファンがインドと比較してこう言った。インドの鉄道も興味深いが、旅行者には大変な国だ。物売りがしつこいし、清潔でない場所が多い。日本は清潔で、何事も信頼性がある。

マイヤー そう、その信頼性。それが日本の鉄道の二つ目の特徴だと思う。いつも時間に正確だからね、名鉄(名古屋鉄道)以外は(笑)。名鉄は毎朝2分遅れる。

ロビンス でもイギリスなら2分は遅れに入らないよ(笑)。

----駅員や乗務員については?

ロビンス 仕事に誇りをもっているね。乗客と駅員がお互いを尊重し合っている。イギリスでは鉄道が遅れたら、客は駅員をののしるし、駅員も対応が悪い。

マイヤー  それに、JR東海やJR東日本は人気のある就職先だ。ドイツの鉄道は人気がない。

----日本の鉄道マニアについてはどう思うか。

ロビンス 日本で鉄道ファンのイメージはオタクだと思うかもしれないけれど、それでもイギリスに比べたら彼らはラッキーだよ。イギリスではオタクすぎる趣味だとか批判されて、変質者扱いだ。

----日本と欧州の鉄道ファンの違いは何だろう?

マイヤー  日本のファンは写真重視で、イギリスは数字重視。ただ数字を書きとめるんだ、クレージーだと思うけれどね。

----数字って何の数字?

ロビンス 車両型式を示す番号だよ。珍しい型式の車両を見たらメモする。クレージーに思うかもしれないが、実は私も少し......(と後ろめたそうに言う彼の胸ポケットには、メモ帳が見える)。

----あなたは写真を撮る?

ロビンス ええ、撮りますよ。そういえば、写真のスタイルの違いは興味深い。

マイヤー  ああ、あれね。蒸気機関車を見に行ったときのことだけれど、日本人は下からなめ上げるように撮ったり、逆光でシルエットだけを撮ったりするんだ。(訪日ツアー参加者の)ドイツ人たちは初めてだから、正面や側面など標準的な写真を撮る。

ロビンス 鉄道が小さく写っているような風景写真も、日本人は好む。芸術的だが、そういう写真はイギリスでは珍しい。

----富士山を背景に手前に新幹線が小さく写っているような?

マイヤー  そうそう!

ロビンス もう一つ大事なことがある。イギリスには保存された鉄道が多く、スタッフの多くはボランティアだ。日本では、ある路線が閉鎖されても何もなされない。

マイヤー  日本の鉄道では、いつも歴史が軽視される。

----好きな鉄道はどこか。

マイヤー  景色でいえば、いちばん興味深いのはJR紀勢本線。片側には海、反対側には山で素晴らしい。日本は島国だから、とても日本的な路線だと思う。

ロビンス 特急列車のイメージが強い小田急線が好きですね。ロマンスカーはとてもスタイリッシュなデザインだ。鉄道にはスピードとスタイルが必要。あと、個人的には食堂車が欲しいけれど。

----駅弁は食べない?

ロビンス うーん、ときどきは。でも冷たい米は好きになれない。

マイヤー  弁当は興味深いよ。梅干しや魚が入っていてカラフルだし。でも冷たいのがねえ......。

[2008年10月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

介入有無にはコメントせず、政府関係者が話した事実な

ビジネス

3月実質賃金2.5%減、24カ月連続マイナス 減少

ワールド

EU、ロシア凍結資産活用で合意 利子でウクライナ軍

ワールド

香港民主派デモ曲、裁判所が政府の全面禁止申請認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中