コラム

トランプの成績表:サイボーグ超えの破壊力で自国の評判を落としたが...

2019年12月19日(木)11時45分

TRASH=ごみ箱、U.S. ALLIES=アメリカの同盟国 ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<外交、経済、内政、安全保障――「ガキ大将」をどう評価するか? リーダーとしての能力と資質からアメリカ政治を読み解く。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

ドナルド・トランプが今も大統領職を続けているのは現代の奇跡と言っていい。単純に死亡率のデータから言っても、彼ほど太った男が睡眠不足で絶えず怒りを爆発させながら世界で最も過酷な職務を3年も続け、体力の衰えすら見せないのは驚異としか言いようがない。何か特別なスタミナ源でもあるのだろうか。
20191224issue_cover200.jpg
その超人的な「重力」は、共和党主流派の軌道までゆがめてしまったようだ。2016年の大統領選予備選であれほどトランプの指名に抵抗していたのに、ほぼ全員があっさりと彼の周りを回り始めた。

今や共和党はトランプの党だ。共和党支持者の90%超がトランプの実績を認めている。1期目のこの時期では歴代の共和党大統領の中で最高だ。トランプはまずまず安定した支持基盤を確保して再選を目指すことになる。ヒラリー・クリントンを破った前回の大統領選と比べ、今のほうが足場は盤石かもしれない。しかも、いま民主党の指名を争っている面々の中にはクリントンほど手ごわい相手はいない。

外交でトランプは選挙戦中の公約をおおむね果たした。予測不能で失言・暴言が目立つが、国際社会への関与からアメリカを引き戻した点は一貫している。イランとの核合意や気候変動対策しかり、EU、NATOとの同盟関係しかり。トランプは一国主義を貫くために最大限努力した。

テロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討には政権の総力を挙げて取り組んだ。その最高指導者の首を討ち取った快挙を、トランプは選挙戦で大いにアピールするだろう。

中国には貿易戦争を仕掛け執拗に「口撃」を繰り返して、新興の超大国を戦略的なパートナーから敵国に位置付け直した。トランプを快く思っていない人たちも、この動きはおおむね黙認しているようだ。

さらにトランプは北朝鮮の領土に足を踏み入れ、在イスラエル米大使館をエルサレムに移転し、オバマ前政権によるキューバとの国交回復を後戻りさせた。次々に大仕事を成し遂げたという意味では外交の評価は高いかもしれない。それにしても国務省の重要なポストの多くが空席のままで、これほど数々の荒業をやってのけた大統領はほかにいない。優秀な人材はキャリアと評判が傷つくことを恐れて、気まぐれな大統領の下で働こうとはしなかった。

有権者の良識が問われる

トランプは経済でも既存路線とは全く違った方向へ舵を切った。TPPを離脱、EUや日本などに貿易協定の締結を求め、カナダ、メキシコとの貿易協定を改定した。税制改革を実施し、法人税率を大幅に引き下げて短期的には景気を拡大させた。

【参考記事】文在寅の成績表:これといった成果なくレームダックが懸念だが...

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで急上昇、円買い介入と市場関係者

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明

ワールド

北朝鮮、「米が人権問題を政治利用」と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story