コラム

アメリカンドリーム・ライフスタイル、作り出された成功者像との葛藤

2019年03月14日(木)11時55分

From Tania Franco Klein @taniafrancoklein

<28歳のメキシコ人、タニア・フランコ・クラインは、現代メディア社会が作り出す物質的成功の追求にもがき苦しんできた。彼女はキャラクター・セッティングをし、それを作品として昇華させる>

時代の波長は、才能ある写真家やアーティストを刺激する。そこに運が加われば、時として彼らは時代そのものを普遍化すことができるかもしれない。少なくとも、時代に絡みつく普遍的なアジェンダを投げ掛けることができる。

今回取り上げる写真家はそんな1人と言っていい。ロンドンでアートの修士号を取得した28歳のメキシコ人、タニア・フランコ・クラインだ。

クラインの作品、とりわけ「Our Life in the Shadows」という作品に接したとき、すぐに何か響くものを感じた。まず、ビジュアル性そのものが飛び込んできた。赤や黄色を、時にシアンの色を、意図的に強烈に押し出している。作品の中でキャラクター・セッティングをし、それを大半はセルフポートレートとして撮影している。

シンプルな構図が多く、ファッション的な匂いも強い。だが、少しアンダーぎみの写真が多く、また彼女自身が、しばしばリフレクションや、身体の部分だけを切り取ったものとして表現されているためか、不可思議で非現実的な匂いも漂っている。それは、彼女がプロセスとして用いたドキュメンタリーとフィクションのはざまで意図的に生み出された世界だが、実のところ、われわれが普段見落としている現実の感覚世界だ。

つまり、こういうことだ。彼女の作品には、コンセプチュアル的に、現代社会が抱えるさまざまなタイプの物質主義的な問題が描写されている。テクノロジーとメディア、とりわけソーシャルメディアが作り出す成功者像に潜む危険性である。無意識かもしれないが、多くの者がそれに煽られ、恐怖や鬱にさらされている。それが作品のテーマだ。

借りものでない。自らの経験に基づいている。現代メディア社会が作り出す物質的成功の追求は、他の多くの国々と同じくメキシコでも――彼女の言葉を借りれば「アメリカンドリーム・ライフスタイル」として――当たり前のようになっている。クライン自身、長年メキシコでそうした文化に染まり、もがき苦しんできたのである。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story