コラム

アトランタ銃撃事件が、アジア系へのヘイトクライムを誘発する?

2021年03月19日(金)15時40分

事件がアジア系コミュニティーに与えた衝撃は大きい Shannon Stapleton-REUTERS

<犯行動機は人種ヘイトでないとしても、この時期にアジア系女性が殺害される事件が起きたことで米社会には衝撃が走っている>

今週16日、ジョージア州アトランタ周辺で、3軒の「アジアン・スパ」が銃撃され、計8人が殺害されました。8人のうち7人が女性で、そのほとんどがアジア系と発表されています。また、在アトランタの韓国系メディアによる、7人の中の4人は韓国系と確認されたという報道もあります。

アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、全国的にアジア系に対するヘイトクライムが増加しています。まず2020年春、感染拡大の初期には、予防目的でマスクを着用していたアジア系に対して「感染している人間が病気を広めている」という誤解からの暴行事件が発生しました。

また、トランプ前大統領が再三にわたって「武漢ウィルス」とか「中国ウィルス」と連呼した結果、アジア系への差別感情が広がり、ヘイトを動機とした暴力行為が増大しています。被害は、ニューヨークやカリフォルニアで顕著ですが、近年はアジア系の人口が8%弱まで増えているジョージア州でも、そのような事件は数多く報告されていました。

そんななかで、8人が射殺されたことで全米には衝撃が走っています。ただ、今回の事件は、新型コロナによる影響への不満や、トランプの扇動とは、やや事情が異なるという見方もあります。

犯行動機は「ヘイトではない」

まず、現場となった「マッサージ・パーラー」とか「アジアン・スパ」という店ですが、全米に多く見られる業態です。リゾートホテルなどにある「マッサージ・スパ」と同種の業態ですが、一部の悪質業者は裏で風俗まがいの違法サービスを行っていると言われています。場末のショッピングモールなどに立地していることが多く、私の住むニュージャージーでは、時折、摘発のニュースを目にします。

ちなみに、アトランタ市のケイシャ・ランス・ボトムズ市長は「死者を冒涜したくない」として、被害に遭った3軒が違法な営業を行う店舗であったかどうかは、現時点では話題にしないという立場を取っています。

これとは別に、事件の翌日になって、警察が明らかにしたなかでは、犯人の21歳の男性は、事件の背景には、自分の「セックス依存症」問題があったと述べているそうです。また、犯人が、襲撃した店舗に客として通っていたという事実も明らかになっています。

男性は白人ですが、少なくとも、コロナ禍にあってアジア系の女性が勤務している店に、何らかの「性的な関心」から接近していたのだとすれば、コロナ由来、あるいはトランプに刺激されてのアジア系へのヘイトとは、動機は別である可能性が考えられます。犯人も捜査当局に対して、「人種は動機ではない」とか「ヘイトではない」ということを強調しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story