コラム

結局は「コロナか? 経済か?」が争点だった米大統領選

2020年11月05日(木)15時40分

そうではなくて、コロナ対策としては、自分が大統領になったら「経済支援策を個人にも自営業にも十分に用意する」という公約を、もっと前面に出して訴えるべきでした。バイデン優位を好感して、ウォール街は株高となっていますが、本来この支援策という公約については、具体的な救済対象である一般市民にメッセージとして届けるべきでした。そこが下手だったために、「バイデンが当選したらロックダウンで経済は壊滅」などというデマが横行したのです。

いずれにしても、バイデン氏にとっての今回の「思わぬ接戦」の原因はコロナ感染拡大だったと思います。ということは、仮に経済支援策を大規模に実施して、家計を安心させることができれば、深刻な国の分断という事態は避けられると思います。

上院選で共和党が予想外の健闘

見方を変えれば、今回怒涛のように湧いてきたトランプ票は、人種差別や排外主義などを掲げるような度を越して異常なものでは「なかった」ということも言えます。

その一方で、トランプ票の掘り起こしに伴う作用として、同時選挙である議会上院で、共和党は予想外の健闘をしています。その上院共和党ですが、これで「最高裁への保守派判事の送り込み」に加えて「まさかの過半数維持(?)」も達成してしまう公算が大きくなりました。

そうなれば、トランプという存在は「用済み」となります。民主主義の維持と政治の正常化を優先する観点から、トランプが際限のない訴訟戦術を続けることに対しては、彼らは冷ややかな姿勢を取るかもしれません。

そして、あらためて世論調査の精度ですが、大前提となる投票率が大きく狂い、その結果として投票者の人種、学歴、年収などの統計的な中心値が大きく狂ったのだとすれば、予測が外れたのは当然と思います。各調査機関は、この経験を踏まえて、世論調査のデータ処理に際して、アルゴリズムを再検討していくことになると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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