コラム

日本の「ハンコ追放」が掛け声だけではダメな理由

2020年09月24日(木)15時00分
日本の「ハンコ追放」が掛け声だけではダメな理由

ハンコをなくしても紙が残ってしまっては何にもならない takasuu/iStock.

<ペーパーレスを進めるには、行政の申請書類のデジタル化や民間の電子契約を確立することも欠かせない>

河野太郎行革担当相は9月23日に開かれた「デジタル改革閣僚会議」の初会合で「ハンコをすぐなくしたい」と述べ、平井卓也デジタル改革担当相も賛同したそうです。報道によれば、河野氏は、「ちゃんとした本人確認のためではなく、ただハンコを押したという事実だけが必要なケースの場合、すぐにでもなくしてしまいたい」と発言したそうです。

例えば、「はんこ議連」という守旧派勢力の利害を背負った政治家をIT担当大臣にしていた前内閣と比較すると、今回は具体的な改革を進めてくれそうな印象です。コロナ禍の中で多くの業務がリモートで完結しているのに、非常事態宣言期間中にも「ハンコを押すだけのために命がけで出勤」を強いられていた経理や総務の人々のことを思うと、いやそれ以前に、先進国中最低である日本の生産性を改善するために改革は待ったなしです。

もちろん、ハンコは追放したが、紙は残ったというのでは意味がありません。ハンコの追放というのは、つまりはペーパーレスということです。ですから、官公庁の場合は申請書類などをデジタル入力できるようにするとか、民間の場合は両当事者が合意すれば、電子契約でも成立するというという慣行を確立すれば良さそうに見えます。

「縦割り行政」を打破するシステム構築を

と言うことは、掛け声をかければ一斉に実施できるのかというと、そうではありません。具体的には3つの対策が必要です。

まず、1つ目は官公庁として、個人もしくは法人の認証方法を確立し、しかも統一するというインフラの整備です。年金を申請する(厚生労働省)、国税の納税をする(財務省)、地方税の納税をする(都道府県、市町村)、パスポートを申請する(外務省)、会社を設立したり土地の登記をしたりする(法務省)など、どの役所に対しても適用できる、きちんとした認証システムが必要です。

「デジタル庁」を設置するのであれば、そこが主導して本当に実現しなくてはなりません。マイナンバーは総務省が勝手に作ったのでイヤだ、などという縦割り行政は打破しなくてはなりません。同時にマイナンバーでは必要なセキュリティの水準が確保できないのであれば、もっと先進的な仕組みを導入するという判断もあるかもしれません。

とにかく、給付金申請のように入力時のエラーチェックが緩く、結局は現場が印刷してチェックしていたなどという、原始的なことをやっていたら生産性は上がりません。制度とシステムの設計には、ノウハウのある人がトップダウンで判断を下せる体制も必要です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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