コラム

新型コロナ対策「日本式」を継続するべきか?

2020年04月02日(木)16時20分

一方で、3月中旬以降始まった「第2波」においても、多くのクラスターが続々見つかっています。例えば、京都の大学にしても、東京の繁華街にしても、最初は「孤発例」だったのが、クラスター対策班の努力で連鎖が発見できており、「第1波」と同じように封じ込めを目指した努力がされているのです。

もちろん、このアプローチには限界があります。クラスターをたどれない「孤発例」がどんどん増えていく一方で、全く「見える化」されない形で、大きなクラスターができていき、ある日突然その中から多数の重症者が病院に殺到する、つまり欧米で現在起きているような「感染爆発」が起こる可能性はゼロではありません。

そうなったら、もうクラスター対策は意味を成さなくなり、1人でも多くの命を救うための臨戦態勢にシフトしなくてはなりません。また、その場合には、陽性者を少しでも早く発見して隔離することも最優先事項となり、PCR検査の対象人数を一気に増やすことも必要となります。

というのが、例えば神戸大学の岩田健太郎教授の言う「プランB」の意味だと思われます。またクラスター対策の数理を主導している西浦博教授は、仮に感染経路が追えなくなった場合は、その3カ月後に感染ピークとなるような感染爆発が起こり得るとしています。

では、現状はどうかというと、「第1波」はほぼ収束に成功した一方で、「第2波」についても、何とか追跡ができつつあるという状況だと考えられます。4月1日から2日にかけて明らかとなった、大阪のショーパブにしても、北九州と福岡にしても、まだ油断できない状況ですが、仮にクラスターの全体像が「見える化」できれば感染の連鎖は抑え込むことは可能なはずです。

一方で、「接触の削減」については欧米ほどではないものの、一斉休校や外出自粛などの対策が強化されつつあります。これは、相当数あると思われる「見えない感染者」からの感染拡大を低減するには、必要な対策です。日本でも、一旦「クラスターが追えない」というフェーズに入ってしまうと、欧米のような事態に陥る可能性はゼロではないからです。

反対に、対策の結果として、孤発例が減少していき、「見えないクラスター」の存在する可能性が消えていく、その上で「見える化」されたクラスターを全部「潰す」ことができれば、シンガポールのように感染の暫定的な収束に持っていくことは可能、これが現在の日本の状況だと考えられます。

<参考資料>
「COVID-19への対策の概念」(3/29 暫定版、東北大学大学院医学系研究科・押谷仁教授)
「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(3/29 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議)
「新型コロナウィルスに関連した 感染症の現状と対策」(3/28 厚生労働省)

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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