コラム

テキサスの落選候補がなぜ民主党の期待の星なのか

2018年11月13日(火)17時40分

クルーズという人は、政策は多少ブレていますが元来は「ティーパーティー系」の政治家です。ですが、今回は「もしかしたら落選するかもしれない」という危機感から、かつて2016年の大統領予備選で罵倒合戦を演じたトランプ大統領に「頭を下げて遊説に来て」もらい、ついでに宗教保守票もかき集めました。

それでもオローク候補に肉薄されたのです。理由としては、都市部における「アンチ・トランプ票」や国境地帯における「トランプ移民政策への反感」が後押ししたという解説がありますが、それ以上に好景気に沸くテキサス州には全国から多くの若い世代の労働人口が流入しており「南部の保守州」ではなくなって来ている、その要素が大きいと考えられます。

ということは、例えばオルーク氏がこの人気を維持して、2020年に大統領候補もしくは副大統領候補として再度共和党に挑戦した場合には、「もしかしたらテキサス全州区で勝利するかもしれない」という見方があるわけです。

これは大変です。というのは、テキサスは大きな州で、大統領選の選挙人数はカリフォルニアに続く全国2位の「38票」もあるからです。レーガン以来の共和党は、この38ポイントは自動的に自分たちのものとして選挙戦を組み立てていましたが、仮にこの38が民主党に流れると形勢は大きく変わります。

例えば、2016年のヒラリーはスイングステート(中道州)と言われる、フロリダ(選挙人数29)、ペンシルベニア(同20)を落として敗北しました。ヒラリーの獲得選挙人数は227で、過半数の270に43足りなかったのです。

ところが仮に、テキサスの38が民主党に行くとなると、2016年のヒラリーの勝敗に関して言えば「227+38=263」で、残り7票取れば当選になります。フロリダとペンシルベニアで勝てなくても、例えばヒラリーの落としたウィスコンシン(選挙人数10)さえ取れば(今回は民主党が上院で勝利)でもう当選です。

民主党にとって、テキサス州で「勝機」が見えてきたというのは、2020年を視野に入れた場合に極めて重要で、だからこそ「惜敗候補」のオローク氏に俄然注目が集まっているというわけです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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