コラム

児童相談所と警察だけじゃない、児童虐待の防止策

2018年06月28日(木)18時50分

共同親権制度が民法の大改正を要求するというのであれば、もう一つ別の対策も考えられます。それは親権(監護権)を持たない方の親の「子どもへの面会権」確保という問題です。

2011年に改正された現在の民法「第766条の1」では、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と明文化されています。

ですが、実際は今でも「離婚後に親権のない方の親が再婚した場合は、子どもとの面会権を放棄する」とか「親権のある方の親が再婚した場合にも、もう一人の親との面会を嫌がる」といった傾向があり、漠然とした社会通念として許されている問題があります。今回の事件は、この後者のケースに近いと考えられます。

この「面会権の保障」については新たな法律ないし、民法の改正によって具体的に規定しようという運動もあるのですが、まだ実現に至っていません。今回の事件を契機に、この対策もあらためて議論すべきだと思います。なお、この「面会権が十分に保障されない」という問題も、国際結婚破綻の場合に「日本法による離婚が忌避される」原因となっているという問題があります。

最後に、子どもを保護する体制ですが、児童相談所の権限を強化するとともに、人員や予算を確保する、また警察との連携を強化することは必要です。これに加えて、加害者や加害者予備軍に対する適切なカウンセリングの体制も必要だと思います。

子どもの生命が奪われたというのは取り返しのつかない事件であり、厳罰をもって償われなくてはなりません。その一方で、この種の加害者やその予備軍というのは、親であっても精神的に未熟であるために虐待を起こしたり、パートナーとの共依存関係に陥って虐待を幇助したりするわけです。

こうした人々に対しては、監視や指導だけでは凶行への抑止は十分ではありません。専門家によるカウンセリングで、状態が改善するように促しつつ、効果が見られず危険が恒常化した場合は、機動的に親権の停止から喪失へと動けるような体制が必要でしょう。

こうした議論は、関係する法律学会や専門家のディスカッションを通じて論点はハッキリしてきています。ジャーナリズムや政治が実務的にしっかりと考えて、議論を進めていくことが必要な時期だと思います。


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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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