コラム

「トランプ自体がリスク」という株式市場の警戒感

2017年03月23日(木)16時50分

そんな中で、仮にこの「好況感と株高」を壊すものがあるのなら、それは外部要因、つまり大規模なテロ事件が起きるとか、国際的な安全保障上の危機が起きるというような可能性を感じていた人が多かったのです。仮にそうした危機が発生して、一気に株安となり、景気が冷えて雇用が失われれば「トランプ人気」など雲散霧消するだろうし、反対に株と景気が堅調なら、トランプの政治も続くだろう、そんな感覚です。

しかし、今回の株安はそうしたあらゆる仮説とは違う形で出てきたようです。それは「トランプ自体がリスク」という考え方です。今回の株安の原因としては、次の4つの要因がほぼ時間的に同時に一気に出てきたことが原因と理解できます。

(1)選挙戦中のトランプ陣営の一部によるロシアとの不適切な関係
(2)オバマが盗聴を仕掛けたという大統領自身の主張の崩壊
(3)新税制など攻めの経済施策が提案できないという遅滞感
(4)医療保険改革案が、上院どころか下院でも難航するという停滞感

という4つです。つまり、外部要因が足を引っ張って株価を下げるというのではなく、市場としては「トランプ自体がリスク」ということを感じ、そのために売りが出てきたということが言えそうです。

【参考記事】ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

ここへ来て、そのトランプ大統領については支持率も低迷を始めました。就任時点で40%を少し上回る程度であったのが、40%を割り込むような調査結果が出始めています。これは、かなり危険水域に入ってきたということで、株価との負のスパイラルを形成する可能性は否定できません。

ここまでのトランプ政治というのは、政権内部の分裂や混乱が表に出てくると、それを打ち消すように「劇場型パフォーマンス」を繰り出してくる、そんな手法が目についていました。ですが、今回の苦境が「自分の身から出たサビ」ということになると、そうした「転嫁」もできないことになります。

そんな中、トランプ大統領は5月にブリュッセルで行われるNATOの会合に出席するというかたちで就任後初の外国訪問を行うと発表しています。NATOのために出かけていくというのが、選挙戦を通じて言っていた「負担金をしっかり払わない加盟国は守ってやらない」というような同盟否定論ではなく、戦後の米欧の安全保障の枠組みを自分も踏襲するという「常識的な路線」への転換であるのなら、市場はこれを好感するかもしれません。また、その逆であるのなら混迷はさらに深まる危険もあります。

いずれにしても、現在の局面は、政権内の分裂がどうとか、FBIやメディアなどとの確執といった個別の問題ではなく、大統領自身の資質と政策が、就任後初めて本格的に「問われている」のだと思います。「トランプ自身がリスク」というのは、そういうことです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

住友商、マダガスカルのニッケル事業で減損約890億

ビジネス

住友商、発行済み株式の1.6%・500億円上限に自

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ビジネス

クレディ・スイス、韓国での空売りで3600万ドル制
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story