Picture Power

大資本に奪われる 世界の農地

THE GLOBAL LAND GRAB

Photographs by TERRAPROJECT

大資本に奪われる 世界の農地

THE GLOBAL LAND GRAB

Photographs by TERRAPROJECT

<エチオピア>農業開発会社サウジスターの経営するガンベラの水田で働く住民。首都アディスアベバに拠点を置く同社は、今後数年でエチオピア国内の土地50万ヘクタールを取得して農地開発を計画中

 地平線のかなたまで続く広大な農地で農作業にいそしむ人々。先祖代々の土地を耕すのどかな農村の風景に見える。だが、この農地は彼らのものではない。世界各地の農村地帯で莫大な資金を元に土地を買い占め、地元の農民を雇って大規模農場を経営するのは、国内外の政府や大企業だ。

 食料品の価格高騰に世界が怯えた08年の食糧危機以降、各国で「食の危機管理」の動きが盛んになった。世界規模で農地への投機が進み、国を超えた「農地争奪戦」が始まっている。広大な土地を取得し利益の上がる単一農産物を大量に生産することは、地域の生物多様性を脅かしかねない。さらに地元住民は土地を奪われ、危機に直面している。エチオピアの小規模農家は補償もなしに立ち退きを迫られ、ブラジルでは土地をめぐって先住民族との間で紛争が起きている。

 イタリアのドキュメンタリー写真家グループのテラプロジェクトは、世界各地で広がる土地争奪戦の現実を写真に収めた。そこで栽培される農産物や、進出した大企業の狙いはさまざまだが、各地の現状は驚くほど似通っている。

<エチオピア>
世界で最も食糧援助を受けている国の1つであるエチオピアでは、300万ヘクタールもの農地が外国企業の手に渡っている。政府はこれらの農地の農産物を輸出して外貨を得ることを奨励。広大な農地は国内の食料事情改善には役立っていない。西部ガンベラ州では農地の立ち退きが進められ、多くの住人が補償もなしに追いやられている

<フィリピン>
インドネシアに次いでアジアで最も土地投機熱が高まるフィリピンには、国内外の大手農業企業が次々と進出。市民団体は大規模農場が地元農業と住民の生活に深刻な影響を与えると反発している。フィリピンは主要なコメ生産国だが、バイオエタノール用サトウキビなどの非食用生産物の栽培に転換される農地が増えている

<ウクライナ>
肥沃な土地が広がるウクライナは、ソ連崩壊後の土地改革で農地が民営化された。大規模経営者による農地取得が進む一方、土地を持たない地元農業従事者が急増。さらに国内外の大企業による買収も激化した。昨年のウクライナの食料輸出は前年比28%増の120億ドルに達している

<ブラジル>
近年の経済成長に伴いブラジルの農産物輸出は急増している。80年代からサトウキビ生産が盛んになり、国内地主や国外企業による土地投機が進んだため、先住の少数民族との間で土地をめぐる紛争も多発。上位1.6%の土地所有者がブラジルの農地の46.8%を占めているとの調査結果もある

Photographs by TERRAPROJECT: Michele Borzoni (ETHIOPIA), Pietro Paolini (BRAZIL), Rocco Rorandelli (The Philippines), Simone Donati (Ukraine)

<2012年10月10日号掲載>

MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中